※本稿は、和田秀樹『90歳の幸福論』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
日本の高齢者は他人に頼らなさすぎる
日本人は、「他人に迷惑をかけてはいけない」という信条を、非常に強く持つ民族だと思います。特に、年齢を重ねるほど、その傾向は強くなるように感じます。
「自分のような年寄りが派手なことをして、人に笑われてはいけない」「ケガや病気をして、家族や周囲に迷惑をかけてはいけない」という思いが強すぎるがゆえに、自分の行動をセーブしてしまいます。
ただ、私はこの「他人に迷惑をかけてはいけない」という思想を捨て、上手に他人や文明の利器に頼ることこそが、幸福な90代を過ごす大切なポイントだと感じています。
急に足腰が悪くなる。意欲がなくなる。眠れなくなる。認知機能がおぼつかなくなる……など、高齢者の人生には様々な障害が現れます。その障害は人によって全く違うし、現れる頻度も違います。
老化をネガティブにとらえ、さらに老いる悪循環
大切なのは、新たに現れた障害を乗り越えるための手段を探すことです。「もう年寄りだから」と諦めてはいけません。
便利な道具を使ったり、誰かに手伝ってもらったりすることで、老化における障害を上手に乗り越えられる人こそが、老化にうまく対応できる人だと私は思います。
長年、数多くの高齢の患者さんを診てきた身からすると、その障害を上手に乗り越えられる人ほど、いくつになっても元気で意欲的ですし、重い要介護状態にもなりにくい。日々やりたいことを楽しんでいるし、家族や友人とも良好な関係を築いているように思います。
逆に、老化にうまく対応できず、老いることをネガティブにとらえてしまうと、どんどん気力も落ちていきます。毎日のように自分の体の不満を並べたり、周囲の人の愚痴を言ったり。そんな日々を送っていては、行動する意欲はもちろん、身体的、認知的な機能も落ちてしまいます。
また、この状態になると、心がかたくなになってしまうのか、他人のアドバイスや福祉サービスなどもあまり受け入れなくなり、ますます行動しづらくなります。行動しなければ、老化も早まってしまい、「この年齢なのに、もうこんなに老け込んでしまったのか」と思うような方もなかにはいらっしゃいます。
どちらのほうが幸せそうかといえば、積極的に老化で起こる障害に対処して、意欲的に動いている人のほうが楽しそうに見えますし、自分自身もそんな高齢者になりたいと思います。