新宿・歌舞伎町には「ヤクザマンション」と呼ばれる建物がある。暴力団の事務所が複数入居しているため、賃貸物件の家賃は相場よりも安いといういわく付きのマンションだ。そこでの生活はいったいどんなものなのか。ライター・國友公司さんの著書『ルポ歌舞伎町』(彩図社)より紹介しよう――。(第1回)
80年代初頭に建てられた“ヤクザマンション”
道端に放り出されたゴミ袋の中で残飯を漁るドブネズミがうごめいている。昨晩からゴミ袋のなかにいるのか、じっと食休みをしているドブネズミもいる。花道通りでそんな光景を眺めていると、歌舞伎町を回るゴミ収集車が目の前に停まった。
颯爽と車を降りたドライバーが道端のゴミ袋を車体後部に投げ入れる。ドブネズミが入ったままのゴミ袋が、押込み板によって奥へと押し込まれていく。早朝の歌舞伎町、なんとも不快な街である。
区役所通りを渡り、ラブホテルをいくつかすり抜けた先にある煉瓦色の建物が、通称「ヤクザマンション」だ。竣工は1980年代初頭。分譲オーナーの多くが投資目的で購入した中国人であるため審査が緩かったこと、そして立地も相まって暴力団の事務所が次々と入居するようになり、ヤクザマンションと呼ばれるようになった。
しかし、1992年に施行された暴対法の度重なる改正、そして2004年に石原慎太郎東京都知事(当時)が取り組んだ「歌舞伎町浄化作戦」によって歌舞伎町のヤクザは衰退し、ヤクザマンションに事務所を構える組も減少したという。
大通りに面したエントランスにはライオンの像が鎮座している。ステップを上がったロビーの左手に管理人室、正面にはマンションの断面図が載ったボードがあり、部屋ごとに所有者が記載されている。
いくつかの所有者の名前をネットで検索してみると、ヤクザの親分がヒットする。該当の部屋の前まで行ってみると、ドアの上に取り付けられた監視カメラが、「ジー……」と見張っている。たとえ鼻を垂らした小学生がこのマンションに住んでいたとしても、ピンポンダッシュなど間違ってもしない独特の緊張感が漂っているのである。