「80歳の壁」を超えるための準備が必要

これは由々しき問題だということで、厚生労働省はこの差を少しでも縮めようと「健康寿命延伸プラン」という取り組みを始めています。プランの一環として2020東京オリンピックまでに1歳のばすという目標もあったそうですが、残念ながら1歳には届きませんでした。

現在のプランでは、2040年までに男女とも健康寿命を75歳以上にすることが目標です。具体的には男性75.14歳以上、女性77.79歳以上という数値を掲げています。しかし厚生労働省がどんなにキャンペーンを行っても、自分の健康寿命は自分でのばすしかありません。毎年少しずつ健康寿命の終わりに近づきつつある私たちは、どうすればよいのでしょう。

若い頃からの生活習慣や考え方を見直す転機として「80歳の壁」が意識されるようになってきました。人間、80歳をすぎたらがまんなどせずに好きなことを好きなだけして幸せな晩年を過ごせばいいという考え方です。ある意味、現代社会における究極の幸福論と言えるでしょう。そんな幸せな晩年を手に入れるには、まず目の前にある高い壁を無事に超えなくてはいけないというのも事実です。

そのためには、60代、70代からの確実な助走が必要です。「私はまだまだ大丈夫」と思っている方も、すぐに対策を始めてください。80歳になってからでは遅いのです。

コロナ禍で高齢者の健康状態に変化が

80歳の壁を超えるための具体的な方法をお話しする前に、私たちの生活に大きな影響を与えたコロナ禍について触れておきましょう。コロナ禍は高齢者の健康と生活習慣を考えるうえで、とても多くの教訓を残したからです。

日本でも新型コロナウイルスに感染し、残念ながら亡くなってしまう人も少なからずいました。しかし、他国との比較で見る限り、感染者がとくに多いわけではありません。現在はワクチン接種も進み、高齢者の健康状態は守られつつあるかのように見えます。けれども、私の実感はちょっと異なります。

この新たなウイルスは、数字には表れない形で高齢者の健康に影を落としていると感じるのです。私が座長を務める政令指定都市の介護認定審査会では、コロナ禍以降、介護保険の申請が増加しています。身体機能の低下や認知症の悪化で介護保険を新規申請したり、介護度が上がったりしたために変更申請するケースが数多くあります。

ストレスのたまった女性
写真=iStock.com/kumikomini
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調査委員さんの提出するレポートでは、高齢者やそのご家族との話のなかに「コロナになってから」「コロナのために」「外出の機会が減って」という枕詞が非常に多く登場するようになりました。コロナ禍は高齢者にどんな影響を与えたのでしょうか。