太っている人のほうが治療後の調子がいい

「肥満ややせを表すBMI(ボディマス指数)が高いほど病気の予後がいい」。つまり糖尿病であろうが、心臓病であろうが、やせている人より太っている人のほうが、治療後の調子がいいということです。

若者から中年期くらいまでは、生活習慣病の予防や治療のために、太らないことが推奨されます。糖質を制限したり、脂質を控えたりしてダイエットを試みます。ところが高齢になって同じ調子で食生活を続けていると、いつの間にかちょうどいい体重を通り越してやせていってしまうのです。

年をとればどんな人でも何かしらの病気にかかり、入院するリスクも高まります。入院したことがある人はご存じでしょうが、入院患者さんは結構忙しく、検査や治療、手術など、病気を治すためのあれこれでさらに体に大きな負担がかかります。入院中は不眠や便秘にもなりやすくなります。結果として食事を思うようにとれなくなり、点滴で過ごす人も出てきます。

ぽっちゃり型の高齢者は、治療に体力を使っても余力があるので退院後も早く回復できます。でも、やせている人はそうはいきません。病院にいながら、食べられなくなり、さらにやせ細って低栄養状態になっていくのです。私はこれを「病院のガイコツ」と呼んでいます。

80歳をすぎても元気な人は“食べる努力”をしてきた

高齢になり、この状態になると元に戻すことは難しく、「退院したのに寝たきりになった」という人も珍しくありません。最悪の場合、「病気は治ったけれど亡くなってしまった」という事態におちいることさえあります。じつは、リハビリテーション医師としての私の原点がここにあります。

大学卒業後、都内の病院で心臓外科医として研修をしていたのですが、患者さんのなかには手術が成功したのに日常生活に戻れない人がたくさんいました。当時の病院では手術後は寝かせっぱなし、点滴の打ちっぱなしが当たり前でした。口から食事をとることも起き上がることもなければ、体の機能はどんどん衰えていってしまいます。

そんな患者さんを数多く診ながら、私は「早い段階でベッドから離れ、できるだけ動いてもらうこと」と「栄養管理を行って口からしっかり食べてもらうこと」がどれほど大事かを痛感し、リハビリテーション科の医師になる決心をしたのです。

80歳をすぎても幸せで健康に暮らしている人は、朝から肉や魚を平らげるような人たちです。みなさん70代のうちからしっかり食べて太っています。人は加齢とともにさまざまな理由で、食べたくても食べられなくなっていきます。この方々はがんばって食べてきたからこそ、その年になっても食べ続けられるのです。みなさんも、いずれ病気をしたときにもリカバリーできる余力のある体をつくっていきましょう。

食事の準備をする介護者
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