家にいれば感染症のリスクは減少するが…

まず、ご高齢な人ほど家から出なくなりました。コロナ禍になってからは外に出ないステイホームが「正義」とされたため、もともと不要不急の外出しかしない人がますます外出しなくなりました。

外出できず運動量が減ったり、人と会わなくなって食事をひとりでするようになったりすると、ほとんどの人は食欲が減り、食事の量がガクンと減ってしまいます。その結果低栄養になると、動くのがますますおっくうになり活動量が低下します。ひとりでさっそうと歩いていた人も、ほんの数カ月でのろのろ歩きになり、足元もおぼつかなくなってしまいます。

みなさんのまわりにも、コロナ禍前に比べ「めっきり年をとったなあ」と感じる人はいないでしょうか。家にこもりきりの生活はウイルスから身を守るには最善の策かもしれませんが、感染と同じぐらいの身体機能低下のリスクをはらんでいることを、私たちはウイルスに教えられたわけです。

コロナ禍がとくに浮き彫りにした高齢者のリスクが、サルコペニアとフレイルです。サルコペニアとは、加齢によって筋肉が減少して日常生活に支障が出る状態です。歩行速度が遅くなったり階段が上れなくなったりして周囲が気づくこともあります。とくに気をつけなくてはならないのは、サルコペニアによって起こる骨折です。

大腿骨の骨折は寝たきりになってしまうリスクも

筋肉量が減って筋力が低下するので足に力が入らず、ほんの少しバランスを崩しただけで体を支え切れなくなり転んで、骨を折ってしまうのです。なかでも太もものつけ根にある大腿だいたい骨の骨折には要注意。この部位を骨折すると手術が必要でしばらく起き上がることもできないため、下手をするとそのまま寝たきりになることも稀ではありません。

実際、厚生労働省の調査では、転倒・骨折が脳卒中や認知症とともに、寝たきりになる大きな原因のひとつに挙げられています。フレイルとは「虚弱」を意味する言葉ですが、老年医学では、介護は必要としないけれども日常生活動作や認知機能に衰えが見られる状態を指します。いわば要介護の予備軍です。

フレイルにはさまざまな要因があり、誰もが同じように発症するわけではありません。たとえば食欲低下やサルコペニアなど、何かひとつの因子が引き金となって悪循環を生み、そこから複合的に作用して症状が悪化していきます。これをフレイルサイクルと言います(図表2)。

【図表2】フレイルの負のサイクル
フレイルの負のサイクル(出所=『「80歳の壁」を超える食事術』)