「ジェンダー問題」から距離を置く男性たちの事情

「一つは、ジェンダーは自分達にはよく理解できない問題だから介入できないし、したくないという姿勢。もう一つはこの問題を追及すると、自分たちの足元の家族の関係性が揺らぐという懸念があったのだと思います。

長時間労働や転勤が当たり前だった新聞社の働き方は、夫が稼ぎ、妻が家事育児をするという性別役割分業が前提で成り立っていたので、男女平等という概念を突き詰めると、自分たちの存在が否定されるような気持ちになったのではないでしょうか」

実際、私自身、週刊誌『AERA』時代、働く女性の記事を書くときでさえ、長年「ジェンダーという言葉は避けて」と釘を刺されてきた。当時私も、男性たちがこの言葉に微妙な忌避感を抱いていることは感じ取っていた。それは声を上げる女性を敬遠する空気と一体だった。

新聞の見出しには「男女格差」の文字が躍る
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです

宗教右派という日本メディアのタブー

日本のメディアは、例えばアメリカの中絶論争や同性婚は重要な政治的イシューだとして、大きく取り上げてきた。2022年6月には、中絶権は憲法で保証されているという重要判例を覆した米最高裁判決が新聞一面で取り上げられ、背景にキリスト教福音派と言われる宗教的価値観があることも詳しく解説された。

一方で、日本のジェンダーバッシングの動きや、伝統的家族観を頑なに守ろうとする宗教右派や保守系議員の動きは、一部の記者やジャーナリストが報じてきてはいたが、それが決して大きくメディアで取り上げられることはなかった。

日本会議の正体』の著者である青木理さんは、ジェンダー政策の遅れの背景に宗教右派の存在があることを指摘し続けたジャーナリストの一人だが、日本のメディアにおいて宗教右派の存在はある種のタブーだったと話す。

「キャラバン隊と称して、地方から改憲運動や、伝統的家族観に基づいた政策の実現という草の根活動を展開し、第2次安倍政権に強い影響力を及ぼしてきた日本会議ですら、海外のメディアが書くまで、日本のメディアはほとんど書いてこなかった」