NHKが単独で全国一律の放送網を展開しているのに対し、民放各局は全国で127局がひしめき合い、放送エリアも細分化されている。

しかも、三大都市圏の1都6県にまたがる関東広域圏を放送エリアとするキー局、2府4県の近畿広域圏および3県の中京広域圏の準キー局の計13局に対し、ローカル局114局のほとんどが都道府県単位に限定されているという、いびつな構図になっている。

放送前のプロのテレビカメラのクローズアップ画像
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6年間で1局当たり約10億円の減収

ローカル局は、地域経済の疲弊やエリア人口の流出が深刻で、コロナ禍の影響も大きい。大都市圏のキー局・準キー局に比べ、ただでさえ商圏が小さいエリアで競争しているだけに、どこも経営が苦しくなるのは言わずもがなである。

全国114局のローカル局の売上高は、14年には7055億円だったが、20年には5933億円にまで落ち込んだ。単純平均すれば、1局あたり約10億円の減収になる。平均売上高が50億円余で、平均営業損益が1億円程度(いずれも20年度)しかないローカル局にとって、容易ならざる事態が進んでいるといえよう。

しかも、地デジ移行後、軒並み更新期を迎えている「マスター」と呼ばれる番組送出設備の費用が5~7億円かかるとされる。過疎地域をカバーする小規模中継局やミニサテライト局の負担も重くのしかかる。収支トントンのローカル局からは「今後の収支改善は期待できそうにない」との悲鳴が上がる。

民放界を縛ってきた「マスメディア集中排除原則」の限界

民放の経営をめぐる規制策は微に入り細にわたるが、その中核となってきたのが「マス排」だ。

基幹放送である地上放送を、できるだけ多くの事業者が放送による表現の自由を享有できるようにするため、放送の多元性・多様性・地域性の確保を目指して設けられた仕組みで、原則として一事業者による複数の放送局の経営を禁じている。

ところが、ネットの浸透で放送界の先行きが危ぶまれるようになると、規制の例外としてさまざまな「特例」が設けられて条文の修正やつぎ足しが行われ、霞が関の中でも有数の難解な省令となってしまった。

かつて放送事業者への出資をめぐって、解釈の違いから「マス排」の制限を超える事態が続出する「事件」が起きたこともある。