責任を丸投げする総務省

民放政策の転換の背景には、ローカル局救済の狙いがあるが、総務省は「あくまで選択肢を示すが、経営判断を行うのは放送事業者」というスタンスに終始している。

それはそれで、決して間違ってはいないだろう。

だが、民放の地方展開にあたって、初めから三大都市圏のような放送広域圏を設定し、相応の商圏を用意していたら、これほど急速にローカル局が苦境に陥ることはなかったかもしれない。

現行のいびつな民放置局の体系を築いてきたのは総務省であり、厳格な規制で民放界を監督下に置いて経営の自由度を奪ってきたのも総務省だ。

そもそもの民放政策に根本的な問題があったと言わざるを得ない。

制度疲労が起きた今、責任を丸投げするかのような姿勢が問われるのは当然だろう。

18年春に「民放不要論」が飛び出した政府の規制改革推進会議の議論は記憶に新しいが、当時は「放送」という制度を事実上なくして「通信」に統合し、民放とネットの動画配信サービスを同列に扱おうという構想が下敷きになっているといわれた。

それから4年余、ようやく総務省は民放政策の大幅見直しに踏み切ったが、民放がネットと折り合いをつけていくためには、まだまだ取り組めることがあるに違いない。

都道府県域とらわれるローカル局

総務省の政策転換を受けて、開局が比較的新しく経営規模が小さい「平成新局」を多く抱えるテレビ朝日ホールディイングスがさっそく、東北地方の系列ローカル局の集約に乗り出したという。

認定放送持株会社の傘下に組み込むか、東北ブロック全体を放送エリアとする広域放送会社に移行するか、北東北三局(青森・岩手・秋田)だけの経営統合を図るか、さまざまなプランが検討されているようだ。九州地方でも、同様の動きがみられるという。

フジ・メディア・ホールディングスは、現行の規制に抵触しそうなローカル局を複数抱えており、認定放送持株会社のルールが変われば、ローカル局を順次傘下に収めることも検討しているという。

ローカル局の事情はさまざまだ。

森の中の家のテレビアンテナ
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地元資本が複雑に入り込んでいるケースが少なくなく、経営統合は一筋縄ではいきそうにない。経営の安定している老舗ローカル局ほど、キー局の意向をまないことも予想される。

「地域密着」の独自性にこだわり、放送対象地域の拡大に慎重な姿勢を崩さない局もあるだろう。「スポンサーの商圏とのミスマッチが起こり、広告の出稿量が減りかねない」と危惧する局もあるという。