こうした中、ユーチューブやネットフリックスをはじめとする動画配信サービスの急伸で、視聴者のテレビライフが激変。民放界は、新たなライバルへの対抗策を探ったものの、ネット事業者と違ってさまざまな規制があるため、効果的な対策を見いだせずにいる。

このため、経営の選択肢を広げられるように、民放界を縛ってきた「マス排」などの大幅緩和を求める声が大きくなってきた。

規制中心から民放の裁量拡大へ

総務省もようやく重い腰を上げ、2021年秋に新たに有識者会議を設置。22年8月に取りまとめられた報告書では、「マス排」の大幅緩和など民放政策の抜本的見直しが提言された。

具体的には、

①認定放送持株会社の傘下の放送局の地域制限(現行12都道府県)を撤廃する
②一定数まで異なる放送エリアの放送局を兼営できるようにする
③複数の放送エリアで同一番組を放送できるようにする

等々。

総務省
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①は、フジテレビなどが要求していた事項で、例えばフジ・メディア・ホールディングスの認定放送持株会社の下で全国のFNS系列ローカル局の一体的経営を行えるようにするもの。系列といえどもローカル局は独立した経営体だが、認定放送持株会社の傘下に入れば、事実上、NHKのように1つの経営体が全国展開の放送網を運用する形が可能になる。

②は、これまでにも「特例」で放送エリアが隣接するローカル局の兼営は認められていたが、手続きが煩雑で使い勝手が悪く活用されずにいた。このため、隣接していなくても兼営を可能にするもので、例えば、福岡県のローカル局が鹿児島のローカル局と経営統合することなどが可能になる。

①と②は「マス排」の中核となる項目で、「マス排」の柱で残るのは「同一放送エリア内における兼営禁止」程度となり、提言どおりに改定されれば「マス排」は事実上の撤廃ということになりそうだ。

一方、③は、テレビ朝日などが主張していた項目で、放送免許の対象エリアは現状の県域のままで、面倒な手続きなしに放送番組を異なる放送エリアで放映できるようにしようというもの。放送対象地域の拡大であり、例えば、岩手、宮城、福島の3県のローカル局が同じ番組を流せることになる。

総務省は、有識者会議の提言に沿ってデジタル時代の民放のあり方を根本から構築し直す方針を決断。民放政策は、民放開設以来一貫してきた規制中心から、民放各局の裁量に委ねる大幅規制緩和へ大きく舵を切ることになる。