慶応ボーイ→商社マン→知事という異色の経歴
都道府県知事と聞いてどんな人物を思い浮かべるだろうか。東京大学卒の官僚出身者が通り相場ではないか。良く言えば真面目、悪く言えば堅物だ。
愛媛県知事の中村時広(62)はちょっと違う。生粋の慶応ボーイであり、振り出しは商社マン。「誰もやったことがないことをやる」「リスクを取って変化を起こす」を信条にしている。官僚特有の前例踏襲主義とは真逆だ。
2011年11月、台湾屈指の工業都市・台中市。中村は世界最大の自転車メーカー、ジャイアント・マニュファクチャリング本社を訪ねていた。
会談相手は創業者の劉金標、別名キング・リュー(英語の愛称)。当時77歳で、中村よりも26歳年上だ。だが、なお会長職にあって現役――会長退任は2017年1月1日――であり、しゃきっとしている。
世界最大の自転車メーカーにトップセールス
ジャイアントはサイクリストの間では誰でも知っている有力ブランドだ。創業は1972年。もともとは米大手自転車メーカーの下請けだったのに、今ではトレックなど欧米有力メーカーを圧倒する存在だ。昨年の売上高は円換算でざっと4000億円に上る。
中村は切り出した。「自転車を使ってしまなみ海道ににぎわいをつくろうと考えています。会長のご意見をお伺いしたいのですが……」
ちょうど1年前の愛媛県知事選では「しまなみ海道を世界へ情報発信する」を公約に掲げて初当選。「世界一の自転車メーカーと組むのが手っ取り早いのではないか」とひらめき、自らトップセールスに臨んだのだ。
トップセールスのために海外を飛び回ることには何のためらいもない。1982年に慶応義塾大学を卒業して三菱商事に入社。政治家に転身するまで――最初は愛媛県議会議員――5年間にわたって営業マンとして鍛えられた。今でも営業マン的なセンスを大事にしており、県庁内に営業専門部署「営業本部」を設置しているほどだ。