広島に急成長を遂げているスタートアップがある。日本で初めてブランドバッグの定額レンタルを立ち上げたラクサス・テクノロジーズだ。ラクサスはなぜ東京で起業せず、いまも広島にいるのか。ジャーナリストの牧野洋さんがリポートする――。(第2回)

カネとヒトが集中する東京に背を向けた

児玉昇司、45歳。早稲田大学を中退して起業し、今では急成長中のラクサスを率いる経営者だ。

広島市出身。1995年、早稲田大学入学半年後に初めて起業。会社売却などを経て、2006年に4度目の起業となるラクサス・テクノロジーズを創業
写真提供=児玉氏
広島市出身。1995年、早稲田大学入学半年後に初めて起業。会社売却などを経て、2006年に4度目の起業となるラクサス・テクノロジーズを創業

一流大学を中退して起業家として大成功と聞けば、アメリカの著名起業家を思い浮かべる人が多いだろう。代表例は米アップルの創業者スティーブ・ジョブズや米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ、米フェイスブック(現メタ)の創業のマーク・ザッカーバーグだ。

もちろん経営規模で見ればラクサスはアップルなどと比較にならないほど小さい。今後も急成長し続けるかどうかも分からない。日本基準では児玉は「大成功した起業家」であるとはいえ、世界基準では「成長途上の起業家」だ。

ただ、彼は大学に籍を置いたまま起業したのではなく、大学を中退して起業している。起業に際してとんでもないリスクと取ったという意味でジョブズらと同類であり、日本では異例の存在だ。

異例という点ではもう一つ付け加えておく必要がある。彼はカネもヒトも集中する東京に移住せず、いまだに生まれ故郷の中国地方――厳密には広島――を本拠地にしている。アメリカであれば、カネもヒトも集中するシリコンバレーに背を向けたようなものだ。

CEOとは思えないカジュアルないでたち

広島平和記念公園近くにある高層ビルの14階。ここにラクサスの本社がある。

児玉は会議室前の廊下に突然現れ、気さくに声を掛けてきた。「どうも! 会議室の中でお待ちください」。グラデーションの入ったセーターにジーンズというカジュアルないでたち。秘書も従えていないため、見たところ最高経営責任者(CEO)とは似ても似つかない。

私は早速「なぜ広島にとどまっているのですか?」と聞いてみた。すると、一つエピソードを語ってくれた。