英語が得意でないのに「得意」にマル

そんないきさつもあり、児玉にとってアメリカ行きは必然的ともいえた。アメリカにカネとヒトが集中しているのなら、自らアメリカに飛び込んで世界展開の足掛かりをつかむ――。こんな発想が生まれたのだ。

たまたま2015年暮れになり、経産省が「グローバル起業家等育成事業米国派遣プログラム」の公募を開始。同プログラムに参加する起業家はアメリカのイノベーション先端地域を訪ね、ネットワークづくりに取り組む。児玉は応募し、起業家6人で構成される東海岸派遣団の一員に選ばれた。

2016年3月、東海岸派遣団はアメリカ入りした。ニューヨークで起業家も含めてさまざまなテック関係者と意見交換したほか、ボストンでは起業家教育の名門校バブソン大学を訪問。同時並行で数々のピッチも行った。

2016年、経産省の米国派遣プログラムに選抜されてボストンを訪問
写真提供=児玉氏
2016年、経産省の米国派遣プログラムに選抜されてボストンを訪問

児玉は英語があまり得意ではなかった。にもかかわらず、書類を手渡されて「英語が得意か?」という質問項目を目にすると、迷わずに「得意」にマルを付けた。「ピッチをやるというのに英語が不得意と書くわけにはいかないと思いました」と回想する。

その代わり、「楽しい」「分かりやすい」を基準にして動画も取り込んだカラフルなスライドを多数作成し、ピッチの中心に据えた。もちろん英語をまったく話さないわけにはいかなかった。ただし、回りくどい説明を一切省き、何か話す必要があるときも中学生が使うような簡単な英語に限った。大正解だった。

児玉は「短いピッチなのにくどくど説明しても相手には何も伝わらない。超シンプルにいくのが一番」と語る。実際、ピッチを終えると「こんなビジネスモデルは世界で初めてだから、アメリカでもやってみるべきだ」といった提案を受けた。

「日本で教わっていた王道」とは全然違う道

児玉がアメリカ訪問で得た収穫は何だったのか。まずは、ピッチを通じて得られた手応えだ。ラクサスが展開するビジネスモデルの有効性を再確認し、海外展開への道筋を描けるようになった。

それだけではなかった。起業や経営についての考え方が一変したのである。本人の表現を借りれば、「アメリカに来て、自分のやり方が間違っていなかったということが初めて分かった」という。

児玉は言う。「日本で教わっていた王道は、大企業で修業を積んで、満を持して起業するということ。そうすれば大銀行や国民政策金融公庫から融資してもらえる。自分が歩んでいた道は全然違っていのです」