片道12時間のシンガポールへも「すぐに行く」

つい最近のことだ。東京に常駐する外国人スタッフから連絡が入った。

「ショウジ、INSEAD(インシアード)つながりで在シンガポールの大物CEOを知っているんだけれども、会ってみる?」
「そんなCEOが東京に来るならもちろん会うよ」
「東京には来ない。シンガポールなんだけれども」
「何それ……でもいいよ。すぐに行く」

東京からシンガポールまで飛行機で片道8時間かかる。児玉にとっては「8時間もかかる」ではなく「8時間しかかからない」だ。

広島から東京までの移動も考慮しなければならない。新幹線で片道4時間だ。だが、新幹線内では会議も含め仕事が可能であるうえ、飛行機と違って新幹線の本数は多い。実際、東京行きは数十分に1本の頻度で出ている。

児玉は言う。「冷静に考えたら大したことはなんです。基本的にノートパソコンとクレジットカードさえ持っていれば大丈夫。バックパック一つで広島からシンガポールへ行けちゃう。要はマインドセットの問題」

フットワークの良さで距離のハードルを越える

確かにマインドセットの問題かもしれない。例えば、アメリカ西海岸のIT(情報技術)集積地として知られるシアトルとシリコンバレー。両地域は千キロメートル以上も離れているというのに、アメリカ人ビジネスマンの間では「遠すぎて仕事にならない」といった声はまず聞かれない。ちなみに、広島と東京は700キロメートルも離れてない。

児玉にとってフットワークの良さは大きな強みとなっているようだ。カネとヒトは東京に集中しているから、彼は必要があれば即決で東京に行く。単なる飲み会であっても、である。

東京にカネとヒトが集中しているとはいっても、あくまでの日本での話である。世界に目を向ければ、東京でもまったく力不足。シリコンバレーには世界中から優秀な人材が集まっているし、リスクマネーの規模もけた違いに大きい。

起業に不可欠なベンチャーキャピタル(VC)を見てみよう。日本ベンチャーキャピタル協会の調べによれば、VCによる投資総額は2021年にアメリカで36兆円に達しているのに対し、日本では8千億円にとどまっている。日本のVC市場は実にアメリカの2%でしかない。ヘッジファンドの代わりに郵貯(現ゆうちょ銀行)と簡保(現かんぽ生命保険)が君臨してきた「金融社会主義」の罪は重い。