いま「東京一極集中」に変化があらわれている。ジャーナリストの牧野洋さんは「人や企業が大都会から地方へ移りはじめた。とりわけ海外から注目されているのが瀬戸内だ。起業家精神の根付いた土地であり、そこから新たな起業家が新風を起こしつつある」という――。(第1回)
来島海峡大橋
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世界が熱い視線を注ぐ「しまなみ海道」

海外から中国・四国地方に熱い視線が注がれている。正確には、海外では中国・四国地方ではなく、圧倒的に「Seto(瀬戸)」あるいは「Setouchi(瀬戸内)」だ。

原動力となっているのは、瀬戸内海に浮かぶ島々をつなぐ「しまなみ海道」だ。瀬戸大橋や明石海峡大橋と同じように本州と四国をつないでいるものの、全長70キロメートルのサイクリングロードを兼ねている点で別格だ。

口火を切ったのは、世界最大の自転車メーカーであるジャイアント(本社台湾)の創業者、劉金標(キング・リュー)氏。2012年にしまなみ海道を自転車で走破し、「ここは世界最高のサイクリングパラダイス」と宣言。その後、同海道の終点である今治市に直営店を設けた。

続いて米ニュース専門局CNN。2014年に「世界で最も素晴らしい7大サイクリングコース」を厳選し、この中にしまなみ海道を入れた。「自動車道から完全に分離したサイクリングロード。小さな島々が浮かぶ瀬戸内海の多島美をバックにしながらサイクリングを楽しめる」と評価している。

アカデミー受賞作品で描かれる瀬戸内海の島々

続いて米ニューヨーク・タイムズ紙。2019年1月に「今年訪ねるべき世界52カ所」をまとめ、日本から唯一「瀬戸内の島々」を選出して第7位にランクインさせた。理由として、現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」とともにしまなみ海道のサイクリングを挙げた。

最後に世界的な高級ホテルチェーンであるアマンの創業者、エイドリアン・ゼッカ氏。新ブランド「Azumi(アズミ)」を立ち上げ、2021年3月に第1号店を開業した。場所はしまなみ海道沿いの生口島いくちじま・瀬戸田地区だ。

2022年に入ると、日本から世界へ向けて瀬戸内を発信するチャンスが訪れた。濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞国際長編映画賞を受賞。広島がロケ地になり、映画の中では主演の西島秀俊が瀬戸内海の島々をドライブしているシーンが出てくる。