活性化の決定打は観光業や企業誘致ではない
確かに地方は取り残されてきた。シリコンバレーをはじめ一部の大都市が豊富な雇用機会を提供し、優秀な人材を吸い寄せてきたためだ。結果として地方は国土の97%を占めているにもかかわらず、人口では20%未満という状況に置かれている。
地方がこれまで打ち出してきた伝統的対策は観光業強化や大企業誘致だった。しかし、現実には地方は大きな成果を出せないまま、人口流出に苦しんできた。
シールズ氏の考えでは、ルーラル起業家こそ地域活性化のエンジンになる。地域のエコシステムに組み込まれ、一心同体となっているからにほかならない。サステイナビリティ(持続可能性)という面で心強い存在なのだ。
日本は深刻な少子高齢化時代を迎えている。そこから中国・四国地方を思い浮かべる人も多いのではないか。実際、2020年の国勢調査によれば、人口減少率でも高齢化率でも全県が全国平均を上回っている。
中国・四国地方で経済規模が最大の広島県を見てみよう。住民基本台帳データによれば、2021年には転出者数が転入者数を上回る転出超過数が7千人を超え、都道府県別で最多となった。
中国・四国地方の未来は「空洞化」か「再生」か
いわゆる「消滅可能性都市」にも中国・四国地方の市町村が多数含まれた。2014年5月に民間シンクタンク・日本創成会議が「2040年までに消滅する可能性が高い市町村」一覧を発表し、世の中に衝撃を与えた。中国・四国地方は地方消滅論と無縁ではいられなくなった。
本当に地方は消滅してしまうのか。もちろん反論は出ている。
例えば、農政学・農村政策論に詳しい小田切徳美・明治大学教授。2014年出版の自著『農村は消滅しない』(岩波新書)の中で中国山地を取り上げ、「空洞化のトップランナー」であると同時に「再生のフロンティア」であると指摘。中国山地をモデルケースにした農山村再生論を唱えている。
「里山資本主義」も忘れてはならない。中国地方を舞台にして人間と自然との調和に根差したシステムが生まれているとする『里山資本主義』(角川書店)は2013年に発売になり、40万部突破のベストセラーになった。その後、汚染された瀬戸内海の再生に注目した「里海資本主義」という言葉も生まれた。
底流としてあるのはサステイナビリティへの関心の高まりだ。気候変動や格差拡大などを背景に、政府レベルでは「SDGs(持続可能な開発目標)」、企業レベルでは「ESG(環境・社会・ガバナンス)」が合言葉になりつつある。