高齢化問題を解決する方法はあるのか。瀬戸内海に浮かぶ大崎下島では、限界集落で「介護のない社会」を目指すプロジェクトが進んでいる。その中心にいるのは行政ではなく、ビジネスで社会課題を解決する「社会起業家」だ。ジャーナリストの牧野洋さんがリポートする――。(第7回)
限界集落で進む「まめなプロジェクト」
過疎対策のために1980年代のイタリアで生まれた「アルベルゴ・ディフーゾ」。空き家など地域に残る資産を活用して、昔ながらの街並みを維持しながら地方創生を図るプロジェクトだ。
直訳すればアルベルゴは「宿」、ディフーゾは「分散」を意味する。集落内にある無数の空き家をホテルとして活用すれば、集落全体が一つの「分散型ホテルシステム」となって観光客を呼び込める――これがアルベルゴ・ディフーゾの狙いだ。
これをモデルにして日本の限界集落で立ち上がったソーシャルエンタープライズ(社会的企業)がある。「まめなプロジェクト」だ。
「きょうのランチはサーモンのムニエルかチキンのグリルですけれども、どちらにいたしますか?」――。まめな食堂に現れた更科安春はエプロン姿だった。
ロマンスグレーの髪の毛に黒縁の眼鏡。いつも笑顔を絶やさず、気さくな67歳だ。時間があればまめな食堂にやって来て台所に立ったり、注文を取ったりしている。
「お化け屋敷」が和風モダンな食堂に
廃虚同然の状態にあった旧医院を改修して今年1月にオープンしたばかりのまめな食堂。「和風モダン」と呼んだらいいのだろうか、緑豊かな田園風景に見事に溶け込んでいる。数年前まで「まるでお化け屋敷」と言われていたのがうそのようだ。
ここは瀬戸内海に浮かぶ大崎下島の久比地区。行政区分上は工業都市の広島県呉市に属するものの、別世界だ。多島美をバックにするサイクリングロード「とびしま海道」沿いにあり、レモンやミカンなど柑橘類の一大産地に位置している。
65歳以上の人口の割合を示す高齢化率が7割前後に達する限界集落でもある。世界の中で高齢化がトップスピードで進む日本の中でも際立っている。いずれやって来る超高齢化社会の縮図だ。