低迷する日本経済を打開するには、どうすればいいのか。いま瀬戸内地域をスタートアップ企業の舞台にしようとする動きが高まっている。合言葉は「波のないセトウチに波を立てる」。ジャーナリストの牧野洋氏が、その一端をリポートする――。

変化から逃げた結果の「失われた30年」

2022年11月6日、愛媛・松山市内の南海放送本町会館。普段は地元テレビ局の関係者が出入りしているロビーが朝方からにわかににぎやかになった。県内外から数百人に上る起業家や実業家らが続々と現れたのだ。ビジネス会議「BLAST SETOUCHI(ブラストセトウチ)2022」の参加者だ。

誰もが瀬戸内と接点を持ち、地元再生に熱い思いを抱いている。サイボウズ社長の青野慶久(51)は登壇者として、イベントの合言葉「波のないセトウチに波を立てる」にぴったりのメッセージを発した。全体を締めくくるセッションに加わり、次のように語ったのである。

「僕が最初に就職したのはバブル崩壊直後の1994年。以来、日本は低迷状態から抜け出せないままです。最初は『失われた10年』だったのにいつの間にか『失われた20年』になり、今では『失われた30年』。チャレンジして失敗したからじゃなくて、何も変わらない状態をずっと続けてきたからです」

ステージで対談中のサイボウズ社長、青野氏(中央)
写真提供=ブラストセトウチ
ステージで対談中のサイボウズ社長、青野氏(中央)

「ゆでガエル状態から飛び出せ」

IT(情報技術)業界でチャレンジし続け、サイボウズを株式時価総額1000億円以上の有力企業に育て上げた青野は愛媛出身。いわゆる「ゆでガエル理論」に言及しつつ、勇気を持って変化を起こすマインドを持つよう訴えた。

「これからは波風を立てるべきです。ゆでガエル状態から飛び出し、チャレンジするんです。失敗するかもしれないですけれども、それで良しとしなければいけません」

別のセッションでは有力バイオベンチャーであるユーグレナの最高経営責任者(CEO)、永田暁彦(39)が会場内を盛り上げた。同社は東京に本社を置く上場企業でありながらも、瀬戸内と大きなつながりがあるというのだ。

ユーグレナの永田CEO
写真提供=ブラストセトウチ
ユーグレナの永田CEO

「一番押さえておかなければならないのは、僕と共同創業者3人がそろって瀬戸内出身ということです。つまり、ユーグレナを率いているのは瀬戸内メンバーなんです」

会場から大きな拍手が巻き起こった。