痛みを伴う改革を断行しなければ本当にまずい

現在、わが国経済は大変厳しい局面を迎えている。1990年台のバブル崩壊以降、わが国企業の国際競争力は低迷気味で、経済全体の活力も低下している。そうした状況を打開するためには、政府は相応の覚悟を決めて痛みを伴う改革を断行する必要がある。

首相官邸に入る岸田文雄首相=2022年11月1日、東京・永田町
写真=時事通信フォト
首相官邸に入る岸田文雄首相=2022年11月1日、東京・永田町

特に、年功序列型賃金体系など旧態依然としたわが国の労働市場は、世界標準から大きく後塵を拝している。それでは、本来、わが国の人材が有している能力を十分に生かすことは難しい。わが国は、そろそろ痛みを伴う本格的な改革を避けて通れない局面にきている。今回の岸田政権の経済対策の概要を見ていると、どうしてもそうした視線が欠けているように思えてならない。

一時的に痛みを伴おうとも、産業界の実力と人材の能力を本当に生かすことができれば、経済の実力である潜在成長率を引き上げることはできるはずだ。長年の課題である労働市場の改革等を行う必要がある。また、規制緩和など構造改革の推進は不可欠だ。

1990年代以降、政府は小手先の経済対策に終始した。岸田政権が発表した、“物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策”にも同じことが指摘できる。物価高に直面する家計の生活負担を軽減することは必要だ。ただ、ほとんどが目先の対応に終始している。中長期の視点で経済の成長を促す政策を実施できないと、最終的には世界経済におけるわが国の存在感の凋落も現実味を帯びる。

賃金が上がらないのに物価は上がり続けている

足許、わが国経済の先行き不透明感は一段と高まっている。深刻な問題の一つは、長い間、実質ベースで賃金が伸び悩んでいることだ。わが国経済が長期の停滞に陥った結果、企業は賃上げに過度に慎重になった。一方、物価は上昇し、家計の生活の苦しさが高まっている。

要因は2つある。まず、世界全体で物価の高騰が続いている。新型コロナウイルスの感染症発生、感染再拡大の長期化による中国のゼロコロナ政策継続、ウクライナ危機の発生などによって、世界全体で供給が不足した。その結果、わが国が輸入に頼る天然ガスなどのエネルギー資源や小麦などの穀物価格は上昇した。