さらに、ここへ来て円安が進んだ。インフレの進行を食い止めるために、米国やユーロ圏などで金融政策は引き締められている。対して、しばらくの間、日銀は異次元の金融緩和を継続する。内外の金利差は拡大し、米ドルなどに対して円が売られた。短期的に、内外の金利差は追加的に拡大し、一段と円安が進みそうだ。エネルギー資源などの価格上昇と円安によって、輸入物価が追加的に上昇する恐れは高い。そうなると、食料や日用品などを中心に家計の支出負担はさらに増すだろう。

世界でも本格的な景気後退が近づいている

家計の生活負担の増加によって、節約を心掛ける個人は増える。2022年4月~6月期の実質GDP(国内総生産)に占める家計最終消費支出の割合は52.9%だ。個人消費の増加ペースがより穏やかになれば、景気回復の足取りはもたつかざるを得ない。それに加えて、世界全体で本格的な景気後退のリスクが上昇している。連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げによって、米国の個人消費は徐々に減少する。

党大会後の中国では、習体制の強化のための政策運営が優先される。その代償として不動産バブルの後始末はさらに遅れるなどし、経済成長率の低下基調はより鮮明化するだろう。そうした変化の兆候として、主に中国の需要を取り込んで業績を拡大してきたわが国の産業用ロボット関連企業の業績予想は下方修正された。リーマンショック後の景気回復を支えた電子部品分野でも、世界的なスマホやPC需要の減少によって収益減少懸念が高まっている。

なぜ日本では抜本的な経済改革が進まないのか

政府として家計や企業への支援を行うことは重要だ。ただ、今回の大型経済対策の全体感として、効果が一時的にとどまるものが多い。小手先の経済対策でわが国の賃金を持続的に増加させることは困難だ。

経済成長とは、まず、新しい需要が創出され、それを満たすために設備投資が行われ、その結果として雇用や所得が増えることをいう。新しい需要=世界の人々が欲しいと思うモノやコトの創造は欠かせない。そのためには、個人、民間企業の創意工夫が、より大きく発揮されなければならない。

政府は創意工夫を刺激し、新しい発想の実現に取り組む人を増やさなければならない。逆に、1990年代初めにバブルが崩壊して以降のわが国では、そうした考えに基づく経済政策が進みづらかった。特に、終身雇用と年功序列の雇用慣行が根強く残る中、社会的要請として雇用の保護が優先されたといえる。