イタリア中部の集落ウルバーニアは、石畳の広がる中世のような田舎町だ。そんなウルバーニアで、国際的な起業家教育の専門家が集まるイベントが行われた。仕掛け人は、語学学校を継いだ42歳の「アトツギ(跡継ぎ)ベンチャー」経営者だ。なぜ「ルーラル(田舎)起業」に、注目が集まっているのか。ジャーナリストの牧野洋さんが現地を取材した――。(連載第10回)

グローカルのお手本がルネサンスの本場に

グローカルという言葉を聞いて、具体的なイメージを思い浮かべられない人は多いのではないか。グローバルとローカルは正反対の意味を持っており、これら二つを組み合わせた造語は矛盾を抱えているのだ。

実例はいろいろある。地方の農家が世界市場に向けて地元の特産品を売っていればグローカルだし、多国籍企業が世界各地で市場ごとの特性に合わせて製品開発していればグローカルだ。だが、基本的にモノの移動であり、広範な人的交流を伴っているわけではない。

観光地でもない田舎を舞台にしてビジネスを展開し、世界各地から多くの人々を呼び込んでいるケースはどうだろうか。いわゆる「関係人口」を劇的に増やして地域を活性化させていれば、グローカルのお手本ではないか。

これまで本連載「瀬戸内ルネサンス」では日本の起業家や実業家らにスポットライトを当ててきた。今回はルネサンスの本場イタリアに目を向けてみたい。そこにグローカルのお手本がある。

世界最大級のベンチャー学会が訪れた場所

イタリア中部にある集落ウルバーニア。北部の大都市ボローニャからやって来ると、まるでタイムスリップしたかのような錯覚に襲われる。

それもそのはず、そこには数百年の歴史を持つ宮殿や城壁、教会が今も数多く残されているのだ。高層ビルは皆無で、青空が全面に広がる。真夏には太陽がさんさんと降り注ぎ、屋外ではサングラスなしでは目を開けていられないほどまぶしい。

ウルバーニアの中心部に集合するUSASBE会員
写真=筆者提供
ウルバーニアの中心部に集合するUSASBE会員

2022年7月中旬、ここがにわかに国際的なにぎわいを見せた。米ベンチャー学会「USASBE(ユサスビー)」が研修プログラムを実施し、会員と同伴者を含めて20人近い会員が10日間にわたってさまざまな活動を行っていたからだ。

USASBEは「全米中小企業・アントレプレナーシップ協会」の略称であり、世界最大級のベンチャー学会だ(会員数は大学教員を中心におよそ1000人)。有力スタートアップを多数生み出すアメリカ生まれであるだけに、起業家教育で大きな影響力を持つ。