彼らは総じて若く、一見したところ20~30代。おしゃれであり、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」をまったく感じさせない。日本で高齢農家を見慣れた私の目には彼らの若さやライフスタイルが新鮮に見えた。

スピーチが終わるとUSASBE一行はテーブルの周りに結集し、若き生産者に次々と質問を投げ掛けた。「チーズはここでしか入手できないのですか?」「近くにワイナリーを持っているのですか?」――。

片や起業家教育の専門家集団、片や伝統的なチーズ・ワイン農家。片や大都会からやって来たアメリカ人、片や田舎で暮らすイタリア人。英語とイタリア語が飛び交うなか、お互いに興味津々で会話を弾ませた。

田舎を変える決定打、ルーラル起業

そもそもUSASBEがルーラル起業を会員向けの研修テーマに選んだ理由は何だったのか。ウルバーニア訪問中のUSASBE一行を率いていたCEOのジュリエン・シールズに聞いてみた。すると次の答えが返ってきた。

「ルーラル起業という言葉はずっと昔から存在します。でもここにきて新たな意味合いを持ち始めています。シリコンバレーなど大都市と比べて田舎は長らく取り残されてきました。これを変える決定打としてルーラル起業が注目されているのです」

アメリカの学会であるから通常はアメリカ国内でイベントを行っているUSASBE。ルーラル起業をテーマにした研修を決めると国内ではなく海外、しかもド田舎のウルバーニアにやって来た。

新しいビジネスの可能性が眠っている

理由は単純だった。ウルバーニアが典型的なルーラル地域であるから研修テーマに適していたうえ、ウルバーニアを拠点にするルーラル起業家――パゾット――の協力が得られるからだった。

若い頃に留学していた米ミリキン大学で、シールズの薫陶を受けたパゾット。研修プログラムの設計だけでなく、ホテルや移動、食事などロジスティックス、さらに研修プログラムの一環として講師役も担当している。USASBE会員をホテルの会議室に集めて特別講義を行い、ルーラル起業家としてのキャリアを詳細に振り返ったのだ。講義は盛り上がり、質疑応答も含めて合計2時間以上も続いた。

パゾットがここまで全面協力するのにも理由がある。USASBEの研修プログラムは、語学学校チェントロにとって新たなビジネスになる可能性を秘めているのだ。USASBEが同プログラムをウルバーニアで定期的に実施するようになれば、パートナーのチェントロは新たな収益源を手にする。12月になって2023年に向けて新たに二つの研修プログラムが発表になった。

しかもUSASBE以外にも潜在顧客が広がる。研修プログラムに参加したUSASBE会員は全米各地の大学に所属している教員だ。彼らがウルバーニアでの研修を魅力的に感じれば、所属大学がチェントロに共同プロジェクトを持ち掛けるかもしれない。