世界各地からオペラ留学生が集まるワケ
チェントロが手掛けているプログラムは多様である。中でも興味深いのがオペラプログラムだ。
オペラはイタリア語とイタリア文化と不可分の関係にあり、チェントロのコアコンピタンスに合致する。歌詞の9割はイタリア語で書かれており、プッチーニら偉大な作曲家の多くはイタリア人だ。
始まりは数十年前にまでさかのぼる。米オベリン音楽院――オハイオ州に位置する名門音楽大学――のオペラ教員2人がチェントロの門戸をたたいた。イタリア語を学びながら現地の文化に触れているうちにウルバーニアを大変気に入り、やがてオペラ専攻の学生をチェントロへ送り込むようになった。
これをきっかけにチェントロは海外で「オペラに強い学校」との評判を得て、オペラ歌手志望者らの間で人気が急上昇。2018年には日本との接点も生まれた。日本人グループがチェントロへ短期留学し、イタリア語を学びながらオペラの特訓を受けるコースが始まったのだ。
オペラ留学という点では環境にも恵まれている。市内には1864年建設の歴史的な「ブラマンテ劇場」がある。小さいながらも本格的なオペラ劇場だ。そこで留学生はステージに上がり、聴衆の前で成果を発表できる。ちなみに、人口35万人のペーザロ・エ・ウルビーノ県――ここにウルバーニアが含まれる――には100棟以上のオペラ劇場がある。
田舎の競争優位性が見直されている
ミラノやローマのような大都市との競争を心配していないのか? パゾットは「差別化できているから大丈夫」と断言する。
「田舎には競争上の優位性があります。ここは安全だし物価も安い。文化も忘れてはいけません。留学生はナイトクラブへ行く代わりに地域コミュニティーと交わり、文化を学べます」
大都会でイタリア語を学びたいという留学生のニーズもある。それに応えるためにチェントロは2011年にミラノ校、2018年にジェノバ校を設立。大都会を好む中国人留学生はミラノ校を利用している。
チェントロにとって競争上の優位性は今後一段と高まる可能性がある。コロナ禍でライフスタイルが変わり、田舎が見直されているからだ。
USASBEがルーラル起業に価値を見いだし、ウルバーニアを研修場所に選んだのは第一歩だ。チェントロはこれまで学生を相手にしてきたリソースを生かし、教員にも学ぶ場を提供できた。
世界各地から人々を引き寄せてグローカルになる集落が瀬戸内にも登場したら面白いのだが……。(文中敬称略)
(後編へ続く)