サイクリング中でしか見えない風景
愛媛県松山市にある県庁本館は重厚でレトロな雰囲気を漂わせている。それもそのはず、1929年完成の歴史的な建物なのだ。正面玄関前にサイクリストが最新鋭のロードバイクで正面玄関前に乗り付ければ、いやが上にも目立つ。派手なウエアを着込んでいたらなおさらだ。
だが、「しまなみ海道サイクリング」からちょうど10年経過した現在、サイクリスト集団が正面玄関前に現れても誰も驚かなくなった。県庁内に知事の肝いりで2015年に発足した自転車専門組織「自転車新文化推進室(現・自転車新文化推進課)」が象徴するように、ここではサイクリングは行政にしっかりと組み込まれているからだ。
インタビュー当日、中村は本館3階の会議室にノーネクタイ姿でにこやかに登場。健康的にほんのり日焼けしていてスリム。実年齢よりも若々しく見える。サイクリングで体を鍛えているからだろう。
実際、プライベートではサイクリングにはまっている。週末になると70~80キロメートルの行程を組んで愛車に飛び乗り、あちこちに出掛ける。「車で移動しているときと自転車に乗っているときとでは見える街並みが全然違う。サイクリングしていると『ここでは道路がへこんでいる』とか『あそこでは照明が暗い』とかいろんなことが分かるんですよ」
サイクリストコミュニティーやスポーツ自転車業界で愛媛県知事は高く評価されている。トップセールスでジャイアント創業者を動かし、日本にサイクリングブームをもたらした実績があるからこそである。今後の課題は何なのだろうか?
「正直言ってもう離陸しています。だから行政としては後押してあげるだけ。実際、いろんな動きが自然に湧き起こっています。しまなみ海道沿いには移住者が増えているし、カフェやレストラン、宿泊施設もどんどん建っています」
(第5回に続く)
(文中敬称略)