世界各地に広まる「しまなみ海道はすごい!」

そのうちジャイアントの世界ネットワークにも「しまなみ海道はすごい!」という情報は流れ込んだ。間もなくしてアメリカやヨーロッパ、オーストラリアなど各地の現地法人社長の間で「次のグローバル会議はしまなみ海道にしたい!」という大合唱が起きた。

ジャイアントのグローバル会議は通常なら本社所在地の台中市で開かれる。そこに世界各地の経営代表が集まり、座学研修や懇親会を行う。もちろんサイクリングもセットにして。

大合唱が起きた結果、2012年に限って開催場所は台湾ではなく日本になった。同年11月末、ランドマークタワー型ホテル「今治国際ホテル」に各国の現地法人社長が続々と現れた。同ホテルは直営のジャイアント今治店と同じ今治市にあり、しまなみ海道への玄関口として利用できるからにほかならない。

「まるで海の上を走っているみたい!」「こんな絶景は初めてだ!」――。ジャイアント一行は海峡を横断していくサイクリングコースに次々と感嘆の声を上げた。しまなみ海道と同様に瀬戸内海の島々をつなぐサイクリングコース「とびしま海道」へも足を延ばし、誰もが大喜びだった。

グローバル会議が終わると、各国の現地法人社長は母国に戻り、事あるごとにしまなみ海道ツアーの思い出話に花を咲かせた。複数の関係者によれば、メディア業界に広い人脈を持つアメリカ現地法人「ジャイアントUSA」の社長が“宣伝役”として大活躍したという。

欧米メディアの記者が「日本にすごいサイクリングコースがあるらしい」と聞き付けて、取材を始めるのは時間の問題だった。

レンタルサイクルの利用台数は3倍以上に

先陣を切ったのは、外国人旅行者向けに日本の観光スポットを紹介する仏ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン。2013年2月発売の改訂第3版(フランス語版)にしまなみ海道が一つ星で登場した。

極め付きは米ニュース専門局のCNNだった。翌2014年6月に「世界で最も素晴らしいサイクリングルート」を7つ厳選し、この中にしまなみ海道を入れたのだ。世界的な影響力を誇るケーブルテレビ局によって報じられたことで、しまなみ海道は世界中のサイクリストの間で一躍有名になった。

その結果、国内外からしまなみ海道へやって来るサイクリストが大幅に増えた。数字の裏付けもある。最も分かりやすいのは、しまなみ海道のレンタルサイクル利用状況だろう。

中村が最初に知事に就任した2010年度を起点とし、新型コロナウイルスが発生する直前の2019年までのデータを見てみよう。レンタル台数(愛媛と広島両県合計)は4万8千台から14万9千台へ3倍以上に増えている。また、広島県尾道市によると、2018年度には約33万2000人のサイクリング客数が訪れたという。