「サハリン2」への出資を継続した理由

第二に、特定の資源や物資の調達をロシアに依存している国(企業)にとっては、物資の安定供給の観点から、供給網をただちにロシアとデカップリング(分断)させられない場合もある。

たとえば8月5日、三井物産と三菱商事が参画していた極東の資源開発事業「サハリン2」の運営がロシアの新会社に移管され、両社は出資を続けるか否かの判断を迫られた。最終的には日本政府の要請もあり、液化天然ガスの権益維持の観点から両社とも出資を継続する方針を固めた。日本政府は対ロ経済制裁よりもエネルギー安定供給を優先させたのだ。

問題は第三の理由、つまり「撤退したいのにできない」ケースだ。国内で製造業が十分に育っていないロシアでは、生産・雇用・技術のあらゆる面で多国籍企業が大きな役割を果たしてきた。西側諸国による経済制裁に加え、国産品での代替が難しい産業で多国籍企業の国外流出が続くと、深刻な物不足、価格高騰、雇用悪化、そして最悪の場合、政権への不満につながる恐れもある。

こうした経済的・政治的リスクを回避すべく、ロシア政府は多国籍企業の撤退阻止にむけた対抗措置を次々と講じてきている。

曇天のクレムリン宮殿
写真=iStock.com/Oleg Elkov
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撤退したいのに許可されない場合も

たとえばウクライナ侵攻から約一週間後の3月1日、日本を含む非友好国の企業がロシア政府の許可なしに株式や不動産を売却することを禁ずる大統領令第81号が発効した。8月5日には、資源・エネルギー・金融など重要分野の非友好国企業について、大統領の許可なく撤退することを禁止する大統領令第520号も発効した。

また現在、外国企業がロシアでの活動を停止する結果として雇用や生産に悪影響が生ずるおそれがある場合、国営銀行VEBなどが外部管財人として資産を接収することを可能にする法案も検討されている。多国籍企業が撤退を希望しても、ロシア政府の許可なしには撤退できないよう、外堀が着々と埋められつつあるのだ。

こうした政府の措置に加えて、ロシアの消費者に販売した製品・サービスの契約上の義務(サブスクリプションやアフターサービスなど)を無責任に放棄した場合、ロシアの消費者から損害賠償を請求されるリスクもある。ロイター通信によると、ロシアでストリーミング・サービスを一方的に停止したネットフリックス社は4月に集団訴訟を起こされている。