西側の制裁のせいで撤退が進まないという皮肉
最後に、ロシア政府から撤退の許可を得やすい分野であっても、株式や事業の売却が順調に進まずに撤退できないケースも少なくない。
たとえば外食産業に注目すると、「バーガーキング」ブランドを運営する米国RBI社は現地法人の株式を売却する方針を3月に発表したが、依然として撤退できていない。本来であれば現地合弁パートナーのロシアVTBキャピタルが有力な売却先候補となるが、同社が西側の制裁対象となったことで、選択肢から除外せざるを得なくなった。
約800店舗のフランチャイジーであるアレクサンダー・コロボフ氏もまた合弁企業の株式を保有しており、このことが事態をさらに複雑化させた。ウクライナ危機後、RBIは所有する店舗を閉鎖するようコロボフ氏に要請するも、同氏は「一方的に営業停止や契約変更をせまる法的根拠はない」とこれを拒否、バーガーキングはいまだ店舗を閉鎖できずにいる。
8月31日、モスクワ駐在の知人に筆者が確認を依頼したところ、依然として店舗は営業中とのことであった(写真参照)。
KFCブランドを運営する米国ヤム・ブランズ社もまた、ロシアからの撤退に苦戦している。ロシア国内に同社の直営店は70店舗しかなく、その他900以上のフランチャイズ店舗はアムレスト・グループ(ポーランド系)やVTBキャピタル傘下のロシア系フランチャイジーによって運営されている。
このアムレスト社もVTBキャピタルへの事業売却を検討していたが、EU(欧州連合)もVTBを制裁リストに加えたため交渉は頓挫した。ヤム社とアムレスト社による売却先との交渉は続いており、多くの店舗は現在も営業中だ。バーガーキングもKFCも、「自国の制裁のせいで株式を売却できず、撤退できない」という皮肉な状況に直面したのだ。