ドイツへのイライラと怒りが渦巻いている
7月26日、ブリュッセルで行われたEUの経済、およびエネルギー担当大臣のサミットの後、ジャーナリストに囲まれたドイツのハーベック経済・気候保護相(緑の党)はEUの連帯を強調し、「この精神、この団結、この決意!」とあたかも会議が大成功だったように述べたが、真実はまるで違う。
懸案であった「EUのガス緊急プラン」は、この日、確かに合意を見たが、EUの連帯のなせる業とは言いがたく、加盟国の真の心中は、身勝手なドイツに対するイライラや怒りが渦巻いていた。
実は、これには前哨戦がある。その6日前の20日、EUの欧州委員会の委員長、フォン・デア・ライエン氏が突然、EUの節ガス計画案を打ち出した。欧州委員会というのはEUの内閣のようなもので、委員長はいわばEUの首相。フォン・デア・ライエン氏はドイツ人女性で、2019年末に就任した。欧州委員会の委員は自国の利益ではなく、EU全体の利益のために動かなくてはならないという決まりがある。
ところが、フォン・デア・ライエン氏の提案はというと、この冬にはガスが逼迫する可能性が高いため、「EU各国が15%という削減目標に向かって努力する」。そして、「それがうまくいかない場合は、欧州委員会の指令で、削減を強制できるようにする」というもの。つまり、欧州委員会が各国のエネルギー政策に介入できる。しかも、欧州議会の頭越しで。
一人勝ちしてきた国が“連帯”を求めるのか
ロシアがヨーロッパ向けのガスを絞っていることで、昨年より高騰していたガスの価格がさらに急騰、多くのEU国が困難に陥っていることは事実だ。中でもとりわけ困っているのが、EUの中枢で長らく思いのままに力を振るい、ロシア依存など存在しないと言い張り、安いロシアガスで独り勝ちしてきたドイツだ。ところが今、そのガスが高騰だけでなく、入ってこない。
つまり、節ガスは、現在の状況下では避けられないが、ただ、よりによってドイツ人であるフォン・デア・ライエン氏によって、高飛車にこの提案がもたらされたことは、即座に加盟国の激しい反発を招いた。ドイツがEUの連帯などという資格があるのか、というのが、多くの国々の本音だろう。
案の定スペインがすぐに、「事前に意見を求められてもいないことによって、自分たちが犠牲になるわけにはいかない」と同案を拒絶。結局、他に賛同する国もなく、この提案はあっという間に消滅した。そこで冒頭のように、6日後の26日、今度は権力志向の欧州委員会ではなく、EU各国のエネルギー担当相の集う閣僚理事会で再協議となり、一応の合意にこぎつけた。これが決裂したら、EUのメンツが立たないという理由も大きかっただろう。