いよいよ逼迫すれば削減は義務になるが…
新たなプランは、各国が15%の節ガス(過去5年間の8月から3月までのガス消費量の平均値の15%減)を目標とすることは変わらないが、あくまでも自主ベース。しかも、欧州のガスのネットワークにつながっていないキプロス、マルタ、アイルランドなど島国は計画から除外されたし、また、化学肥料の生産など国民の食糧調達に直接関係するような産業も免除されるなど、例外措置がやたらと増えた。
なお、15%削減がうまくいかず、事態が本当に緊迫した場合、節ガス措置は強制に切り替えることができるが、そのハードルも非常に高くなった(閣僚理事会の15カ国の賛成が必要で、しかも、その人口がEU全体の65%以上であることが条件)。
ただ、もし本当にそういう緊急事態が訪れた場合、はたしてどの国が削減義務化に賛成するかはまったく予測できない。そのうち厳寒期となり、節ガスのせいで健康被害が出始めたり、不況が深刻になったりした場合、このガラス細工のような連帯がどれだけもつか? ひょっとすると、合意も連帯も口だけで終わる可能性もある。ハーベック氏が会議の後、「EUは分裂しない!」と大見栄を切ったのは、ドイツ国内に向けたガッツポーズだったかもしれない。
なぜだれもドイツを助けたくないのか
EU諸国がドイツに冷たい理由は、長いリストができるほどある。現在、EUの会合がドイツの代表者にとって「カノッサの屈辱」だと言われるゆえんでもある(1077年、ローマの王であるハインリヒ4世が、ローマ教皇に破門の解除と赦しを乞うため、雪の中、カノッサ城の門の前で3日間も立ち続けたという話)。
まず、ポーランド。ポーランドは2014年、ロシアがクリミアを併合したことを受け、当時のドナルド・トゥスク首相が、EUはロシアエネルギーから独立しようと強く提唱した。彼によれば、EUは他の分野で進めているように、エネルギー分野でも共同プロジェクトを立ち上げ、エネルギーの調達先、および輸送路の開発、さらにはグリーン政策への転換も含めて、独自のルールで協力し、EUという市場を充実させていくべきだとした。
同年、トゥスク氏は欧州理事会(EU全首脳の会議)の議長となったため、このアイデアの実現に向けてさらに甚大な努力をした。これには、どのみちロシアの脅威をひしひしと感じていた東欧諸国はもちろん、南欧諸国も、また、当時の欧州委員会のユンカー委員長も皆、賛同した。
それにもかかわらず、このプロジェクトが頓挫したのは、メルケル首相の執拗な反対があったからだ。彼女は、「エネルギー政策は各国の課題」であり、しかも、「ロシアガスに懸念材料はない」とした。懸念どころか、ドイツにとってこれ以上おいしい商売はなかったのだ。