メルケル政権が残した大きすぎる代償

さらにドイツの孤立を決定的にしたのがノルドストリーム2の建設だった。2011年に開通したノルドストリーム1で味をしめていたドイツとロシアは、2018年、ノルドストリーム2の建設に着手した。ただ、このパイプラインには、言うまでもなく最初から反対が多かった。いや、反対者しかいなかった。

NATOで西欧をロシアの脅威から守っているつもりの米国は、ドイツがロシアと結託していることに怒り、ウクライナは、自国を通っていた陸上パイプラインが永遠に御用済みになることを恐れた。他に大した収入のないウクライナは、膨大なガスのトランジット料で経済を支えていたが、メルケル氏は、ウクライナには補償を支払って黙らせれば良いと思っていたようだ。その後、ウクライナのゼレンスキー大統領がドイツに対して非常に敵対的だったのは、われわれの記憶に新しい。

ノルドストリーム2が運開すれば、既存のノルドストリーム1と合わせて、ドイツのロシアガスへの依存率は70%に跳ね上がるはずだった。当然、このままではEUの安全保障が担保できない。それに加え、トランプ大統領の強い反対で中断を余儀なくされた工事だったが、2020年に就任したバイデン大統領がメルケル前首相と会談した途端、なぜか工事は速やかに再開された。

要するにドイツは、すべての反対を無視し、あらゆる手段を使ってこのプロジェクトを推し進めた。メルケル首相以外の政治家も長らく超党派で、彼女の権力の下で経済の繁栄を謳歌し続けた。そして、今、その結果がこうだ。

ドイツ・ベルリン中心部にある有名なフリードリッヒ通り
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「権力を振るうか、協力しないかのどちらかだ」

現在のガス事情はというと、スペインもポルトガルも独自路線で、随分前からロシアのガスにはもうほとんど依存していない。備蓄のガスタンクもすでに満杯だという。スペインの主要紙は、「いずれ歴史が審判を下すだろう。ドイツのシュレーダー元首相、とりわけメルケル前首相は責任を問われるはずだ」と書いている。彼らは、ドイツが自らの間違いに言及することなく、EUの連帯を求めてくることに苛立ちを隠さない。

フランスは外交の国であるからあからさまにドイツを非難することはないが、実は彼らの怒りも大きい。数年前、独シーメンス社が、アレバ社との原発合弁事業から一方的に撤退したという経緯もあれば、最近では、EUタクソノミー(EU独自の持続可能な経済活動の指標)に原発が含まれないよう、ドイツが激しい妨害工作をしていたこともある。「ドイツは自分たちが権力を振るうか、あるいは協力しないかのどちらかだ」と指摘するのはフランスの著名なジャーナリスト。