多国籍企業による「自発的制裁」
2月にロシア軍がウクライナに侵攻すると、西側諸国はロシアとの貿易・金融取引などを大幅に制限する一連の対ロ経済制裁を発動した。こうした動きに呼応するように、ロシアでビジネスを展開していた多国籍企業もまた、現地事業の停止や撤退を次々と表明した。いわゆる企業による「自発的制裁(self-sanctioning)」である。
これら企業のなかには、西側の制裁の影響で現地でのビジネスが立ち行かなくなった企業のみならず、ロシアに対する抗議行動として、あるいは「ロシアに経済面で貢献し続けること」のレピュテーション・リスクを嫌って事業の停止・撤退を表明した企業もあろう。
企業の自発的制裁の動きに拍車をかけたのは、米国イェール大学のジェフリー・ソネンフェルド教授が2月末に公開した「在ロシア多国籍企業の撤退状況」に関するデータベースの存在だ。
「恥の殿堂入り企業」リストの公開
研究者としてのみならず、経営者に対して企業の倫理的責任を問う活動家としても知られる同教授は、ロシアでビジネスを継続しようとする企業を「恥の殿堂入り企業」と命名。3月初旬にフォーチュン誌やワシントンポストに取りあげられると、データベースの存在は各国メディアやSNSによって一気に拡散され、教授の元には「撤退を表明した企業として自社の名前も加えてほしい」との要請が各国企業から殺到したとされる。
2月末の公開当初、データベース掲載企業はわずか数十社であったが、3月末には約500社、9月1日現在は1385社(うち日系企業は64社)にまで増えている。撤退状況の内訳は「現状維持」が242社(18%)、ロシアでの「新規投資中止または事業縮小」が331社(24%)、「事業停止」が499社(36%)、そして「撤退表明」が313社(23%)である。
イェール大のウェブサイト上では「1000社以上の企業がロシア事業を縮小・撤退」と大々的に宣伝され、また日本の報道では「ロシアから撤退した外資系企業は1000社を超えた」と誇張される場合もあり、あたかも多国籍企業のロシア撤退が順調に進んでいるような印象を与えている。