虎視眈々と「後釜」を狙う中国企業

撤退状況は企業の国籍や業種によってバラツキがある。国籍別では、英国や米国など欧米企業との比較でアジア企業は撤退が遅れており、日系企業についても、撤退を表明または完了した企業の割合は4%と低い。

対ロシア経済制裁に参加していない中国の企業にいたっては9割以上が事業を継続しており、西側企業が撤退した後のビジネスチャンスを虎視眈々たんたんと狙っているようだ。

業種別にみると、「製薬・医療機器」では9割、「エネルギー」や「金属・鉱業」では7割以上の企業がロシアでの事業を継続しているほか、「電子機器」や「自動車」でも撤退を表明した企業の割合は1割弱と低い。特に「製薬・医療機器」分野では多くの多国籍企業が「人道的見地」からロシア市場での医療物資の供給を継続すると表明したが、それらが軍に流れていく可能性を懸念してか、「(一部の企業が)ロシアの戦争遂行を支援している」とキーウ経済大学は非難している。

【図表】国別・業種別の撤退状況

そう簡単にはビジネス権益を手放せない

西側企業の完全撤退が進まないのはなぜか。以下では主な理由を3点指摘したい。

第一に、これまで収益面でロシア市場に依存していた企業にとっては、現地ビジネスの権益を簡単には手放したくないという切実な事情がある。ひとたび撤退すれば、ロシアや第三国の競合に顧客を奪われることは明らかだ。仮に将来、ロシア市場に戻るチャンスが訪れたとしても、一度奪われた顧客を取り戻すことは容易でない。

また西側政府は制裁の一環として、ロシアへの新規投資や軍事転用可能な物資の輸出などを禁止しているが、ロシアでの商取引を全面的に禁止したわけではないし、撤退に伴う損失を補塡ほてんしてくれるわけでもない。

在ロシア米国商工会議所の会員向けアンケートによると、米国企業でさえ、85%の回答企業がロシア市場にとどまると表明している。西側諸国の消費者や投資家から注目を浴びないよう細心の注意をはらいつつ、できればロシアでビジネスを続けたいと考える企業は少なくないということだ。