村人30人を射殺し、手榴弾で爆破して事件を隠蔽

私はビン編集長と握手を交わし、ロビーのソファーで訪問理由を話した。すると「少し待っていてくださいね」と立ち上がり、編集局長室から2冊の書籍を持ってきた。それは、ビン編集長が編纂へんさんしたという地元の郷土史をまとめた本だった。

田園風景
写真=iStock.com/picturist
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「私は歴史が大好きで、約2年かけてフーイエン新聞社の記者や友人らと一緒に資料研究・聞き取り調査を行いました。これらがその集大成です。タイホア県のホアドン社とホアミー社の郷土史をまとめたものですが、他県も現在進行中です」

ビン編集長は、書籍をペラペラとめくり、「韓国軍による虐殺事件についてはこのあたりに書かれていますね」と説明した。ともに3センチメートルほどの分厚い本のそれぞれに、ベトナム戦争時代に起きた事件に関する証言の記録があった。以下はその概要だ。

・ホアドン社フーミー村では村人30人全員を撃ち殺したあと、3つの井戸に放り込み、手榴弾を投げ込んで、何事もなかったかのように隠蔽いんぺいした。
・韓国兵10人がひとりの若い女性を集団でレイプし、女性はその後、撃ち殺された。
・ホアミー社チュオン村では16人が殺害された。一家6人が死亡した家では、高齢者2人、妊婦1人、障がい者1人が含まれていた。
・ホアミー社ミートゥン村とクアンフー村では7人の女性を捕らえ、兵士らが代わる代わるレイプしたあと、女性ふたりの喉を銃剣で突き殺害。残り5人の女性を森へと連行し、裸にさせてきつく縛り、韓国兵のトップらが輪姦をした。その後、5人の女性と乳児ひとりを刺し殺した。

目を覆いたくなるような惨劇が克明に描写されていた(※3)

(※3)ファン・タン・ビン編纂『ホアドン社党委員会の歴史』/Đọc sửa bản in : Phan Thanh Bình “LỊCH SỬ ĐẢNG BỘ XÃ HÒA ĐỒNG”(1930-2005)(ĐẢNG BỘ XÃ HÒA ĐỒNG, 2010)159~160頁とファン・タン・ビン編纂『ホアミー社の歴史』/ Sửa bản in : Phan Thanh Bình “LỊCH SỬ XÃ HOA MỸ” (ĐẢNG BỘ XÃ HÒA MỸ ĐỒNG / ĐẢNG BỘ XÃ HÒA MỸ TÂY HÒA MỸ, 2013) 139~140頁(ホアドン社とホアミー社は、いずれもフーイエン省タイホア県)。

「兵士が持つ銃剣に、輪投げのように乳児を投げて殺害」

「この2冊の本には書かれていませんが、作成中の他県の聞き取り調査では、『婦女を輪姦し、乳房をナイフで切り取ったあと、女性器を銃剣でかき回して殺害』『兵士が持つ銃剣に、輪投げのように乳児を投げて殺害』など信じられないような証言をいくつも聞いています」と、ビン編集長は静かに話した。事件が起きたとされる村で韓国兵がとった行動は、とても正気の沙汰とは思えないものばかりだ。

「今日はこのあと、どちらに行かれますか?」
「昨年6月の『フーイエン新聞』の記事を参考に、ドンホア県のホアヒエップナム社(※4)に行こうと考えています」

「ホアヒエップナム社ならダグウ村のヴンタウ集落(現フーラック村)に1975年に建立された石碑があります。それと、ヴンタウ集落近くのトーラム村に住む彼を訪ねたらいいでしょう」とビン編集長は胸ポケットからスマートフォンを取り出し、事件の生存者、ファム・ディン・タオ(57歳=2014年6月時点)という男性の電話番号を教えてくれた。ベトナム戦時下で起きた韓国軍による民間人殺害事件に関する証言を、地元新聞社がまとめていることを、私はこのとき初めて知った。

その情報を惜しげもなく提供してくれたビン編集長。フーイエン新聞社への訪問は、想像していた以上の成果があった。「私は日本が、日本人が大好きなんです。美しい街並みと自然に囲まれ、人びとは真面目で、謙虚で、親切で。私でお力になれることがあれば、なんでもおっしゃってくださいね」と、ビン編集長は満面の笑みで私の肩を抱いた。

(※4)ベトナム戦争時代、ホアヒエップ社はトゥイホア県(現トゥイホア市)に属し、北(バック)、中(チュン)、南(ナム)の3つに分かれていた。