富野監督への手紙
ヨコオさんとなら、豊かな対談が成り立つのではないか? 私たちは、富野監督に初めて手紙を書きました。
富野由悠季さま
今日はご提案したいことがあり、僭越ながら手紙を書いています。
「富野由悠季の世界」Blu-rayでは展覧会場で趣向を凝らした上で、対談を設けさせていただこうと考えています。その対談相手の人選についてです。
このBlu-rayの目的のひとつは、かつて一段低く捉えられていたアニメーション制作に関わってきた人々の創造性の高さを伝えることです。
「富野由悠季の世界」展が見せたのは、富野監督がスタッフと共に「世界そのものを構築してきた」という事実に他なりません。
このことを別ジャンルの作家と語り合うことはできないだろうか?
そう考えました。
富野監督もおっしゃっていたように「永遠に快楽に浸らせ続ける」狡猾なゲームが増えている中、その快楽をぶった斬るような世界を作る作家が生まれています。
対談相手として提案するのはヨコオタロウ氏。「ニーア」というシリーズを作っています。「ニーア」ではプレイヤーは強い武器を持った美しいキャラを操作して、敵キャラを鮮やかに殺めていきます。しかし、物語のある時点でこれまで倒してきた敵キャラが自分たちの味方であったことが明かされます。
これまでプレイヤーが味わってきた敵を殺める快楽が罪悪感に反転する瞬間を作り上げていて、背筋が凍ります。主流に迎合した内容ではないにもかかわらず、最新作『ニーア・オートマタ』は全世界でヒットしています。ヨコオタロウ氏はこのゲームの総合ディレクターです。
ヨコオさんは受動的なメディアである映像に、ゲームの能動性を斬新な発想で組み合わせて新しい楽しさを提供しています。
富野さんとヨコオさんが対談することで新しい何かが生まれるのではないかと考えました。
ご検討のほどよろしくお願いします。
2021年10月20日
中西朋
(Blu-ray『富野由悠季の世界』にて企画統括を担当した青山弘輝さんと、富野監督のマネジメントを行っている向猛さんの協力を得て手紙を書きました。)
手紙を読んだ富野さんから了承をもらい、対談が実現することになりました。