いよいよ対談開始

2021年11月29日、富野監督はヨコオタロウさんと池袋の撮影スタジオで初めて対面しました。

富野由悠季監督とヨコオタロウさんの対談の様子
写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より
富野由悠季監督とヨコオタロウさんの対談の様子

富野監督はまず「2Bちゃんかわいいですね。特に唇がエロティックでよい」と声をかけました。2B(ツービー)とは『ニーア・オートマタ』の主人公である女性アンドロイドのこと。意表をつかれたヨコオさんは思わず声を上げて笑いました。富野監督は忙しい合間を縫って『ニーア・オートマタ』のことを研究してきたのです。

富野監督がこの対談を引き受けたのは、新しいエンターテインメントを作っているヨコオさんからそのノウハウを聞き出し、自分の仕事に活かしたいという理由もありました。

ここからは富野監督が、ヨコオさん独自の演出技法を聞き出すという流れができました。

例えば、2Bは両目が目隠しによって覆われているのがデザイン上の最大の特徴です。これはジャンルを問わず、なんらかの物語で主人公を担うキャラクターの造形としてはかなり珍しいことです。瞳はキャラクターの魅力を訴えかける最大のチャームポイント。それを隠すのはセオリーから外れるというわけです。

「2Bはどうして目隠しさせたの?」富野監督からの質問にヨコオさんはこう答えました。「主役の両目を隠すなんて普通あり得ないですよね。多くの人に反対されました。でも、みんなが反対すると言うことは、誰もやらないということですよね。だからこそ実現したら、強い印象を残せるだろうと考えました」

ヨコオさんの仕事への向き合いは、「ゲーム業界でいつの間にか常識とされていることの“真逆”を提供することが、プレイヤーにとっては新鮮な楽しさになる」という軸で貫かれており、刺激的なエピソードがたくさん飛び出しました。

富野監督が引き出した『ニーア・オートマタ』の秘密

しかし、ひとつだけヨコオさんが話すことをためらった演出上の秘密がありました。それは「プレイヤーが味わってきた敵を殺める快楽が罪悪感に反転する仕掛けをどうやって思いついたのか?」という『ニーア・オートマタ』の面白さの根幹に関わること。ヨコオさんはこの質問だけはのらりくらりと核心に触れずかわしているように見えました。

これはいわば“企業秘密”とも言えるものです。ヨコオさんもそう簡単に教えるわけにはいかないのでしょう。

諦めない富野監督は2度3度と同じ質問を繰り返します。その手にはこの日の対談のために作ってきたヨコオさんについての資料。さらにヨコオさんの意見に同意する部分があると深く頷き、撮影中にもかかわらず細かくメモを取っていました。30歳近い年齢差があるにも関わらず富野監督は、「これから映像の未来はどうなっていくんでしょうか?」と質問するなど一貫して相手を立てる態度を崩しませんでした。

さらに自身が作った『機動戦士ガンダム』の仕掛けとして、当時の日本の高度成長期が工業製品によって支えられていたことに着目してロボットを前面に出したことを話しました。

企画展「富野由悠季の世界」で展示された「リ・ガズィのダミーバルーン」(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より)の原寸大の胸像
写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より
企画展「富野由悠季の世界」で展示された「リ・ガズィのダミーバルーン」(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より)の原寸大の胸像。

4度ほど同じ質問が続いた時、ヨコオさんはついに観念したように『ニーア・オートマタ』の秘密を話しはじめました。