マンガの感想を言い合う兄妹の時間

事前の約束どおり、妹はこの一件を親に報告せず、以来、兄の部屋に入ってはマンガなどを借り、その感想を言い合うようになる。

書架から書籍を取り出す手元
写真=iStock.com/ArthurHidden
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となれば、第3のミッション敢行である。それは、自身の大学生活の報告と、友人関係の愚痴など些細な悩みを相談することだ。これまで築き上げた兄妹関係をさらに良好にするのが趣旨である。

妹は特に苦もなくミッションを遂行した。どころか、自分の欲しい本やマンガを兄に買わせたり、コンビニの買い物の際に「ついで買い」を兄に依頼するまでになる。

やがて、兄のみならず妹までも親の金で買い物をしていることを両親に知られ、彼らは兄妹でコミュニケーションが成立していることに気づく。当然ながら、親はそこでどんな会話が交わされているのか妹から執拗しつように聞き出そうとした。しかし、妹は、兄にとって絶対的な敵である両親の介入は防がねばならない。そのことも十分に理解していた彼女は、時々マンガの感想を言っているだけと報告するに留めた。決して嘘ではない。

真心を込めて長所を伝える

こうして数カ月が過ぎて、第4のミッションを迎えるときが訪れた。

兄と笑い合うような瞬間、心の通い合ったと感じる瞬間があった際、思い切って「学校に行ってほしい」「長所を活かしたことを学んでほしい」と妹から告げてもらうのだ。長所は、マンガに詳しい、私の話を聞いてくれるなど何でも構わない。とにかく美点を挙げれば、人はその相手をより好意的に見るようになるものだ。

このケースでは、妹は心から兄に人間的な魅力を感じていたので、お世辞ではなく、兄の長所をストレートに口にし、さらには教師や医療関係の仕事が向いているように思うとも伝えた。C君は、何も答えなかった。妹も急かすような言動は控えたが、自分が本気で兄のことを思っていることは十分に伝わった感触を覚えた。