寝坊が全国ニュースになる

ちょっとのうっかりで全国ニュースになるかどうか紙一重というプレッシャー。これを感じながら毎晩駅員は眠りについている。すると、こんな疑問が湧いてくる。

「でも早朝は無人の駅が最近は多いのでは? 何でそこは大丈夫なの?」

その通りである。早朝に無人の駅は、大抵タイマーでシャッターが自動で開くように設定されている。または、シャッター自体が設置されていない駅もある。だったら有人駅のシャッターもタイマーで開くようにすればいいのではないか。

上司に聞くと、「本当にギリギリになればタイマーで開くよ。でもそんなギリギリまでシャッターを開けないと苦情になるから試すなよ」とのことであった。

とりあえず自分の駅に関しては、ニュース沙汰は避けられるようだ。技術的に可能であるのにタイマーを使わない駅がある理由は、コスト削減・社員に緊張感をもたせるため・シャッターが動作している際は人が見張るべきという方針によるようだ。

そしてもう一点、万が一遅刻や寝坊をすると社内での処分が大変厳しいのである。

日本の鉄道は時間に正確とよく言われている。もちろん時刻通りに運行するための様々な仕組みが上手く機能しているのも確かだが、時間に関わるミスが発生した際の処分の厳しさも、時間の正確さに大いに関係している。

早朝の駅
写真=iStock.com/Alexander Pyatenko
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うっかり寝坊した駅員の末路

どのくらい処分が厳しいのか。入社直後に、同期からこんな噂を聞いた。

「B駅のあいつ、駅に配属になって即遅刻したらしいぞ! やばいよな!」
「初っ端から遅刻するとイメージは下がるだろうし、払拭しにくいかもね」
「違う違う、1回遅刻すると昇進が1年遅れるんだよ!」

そこで私は、初めて処分の厳しさを知った。前職のバス会社では、遅刻に対してそこまで厳しい処分は行われていなかった。それが鉄道会社ではこの厳しさである。

出世する気がないなら痛くも痒くもないかもしれないが、1年昇進が遅れると、上がっていたはずの給料が上がらないのでダメージは大きい。また、一定以上の役職でないとできない仕事もあるため、出世のプランも狂ってしまう。

もちろん就業規則にそんなことは明文化されていないが、昇進試験(*)の合否は普段の勤務態度も評価の対象なので、内申点が大幅に下がる仕組みになっているのだろう。遅刻や寝坊はゼロが理想ではあるが、人間なので予期せぬミスは発生する。

*筆者註:昇進試験……私が勤めていた会社では筆記および面接の試験で昇進が決まる方式だった。ただし合否には普段の勤務態度が含まれるとのことで、試験だけできてもダメ。

私もうっかりやってしまった人を何人も見てきた。彼らがどうなったか見ていると、確かに昇進試験で不合格となっていたので、大幅に減点されるのは間違いなさそうだ。代償は他の業界よりも大きい……。