ちなみに泊まり勤務の睡眠時間はどのくらい確保されているのだろうか。

私の勤めていた駅では終電が午前1時頃、初電は午前5時頃であった。都心部の路線だと大体このくらいのことが多いだろう。この場合、電車が走っていない時間は4時間だけ。寝る時間が短いなら、少しでも多く寝ようとすぐ布団に入って目を閉じる。

ガタンゴトン……ガタンゴトン……。

そう。駅で寝るということは、寝室は線路のすぐそば。終電が終わったからといって、電車が全く走らない訳ではない。回送列車や保守用車(*)が走っている。そしてここは閑静な住宅街ではなく、駅である。深夜駅前の道路に、不意に物凄い排気音で走り屋の車やバイクが駆け抜けていく。

*筆者註:保守用車……夜間に線路のメンテナンスをする列車。

周りが静かなだけあって余計に音が響く。そんな環境なので、寝ようと思っても全然寝れないのだ。結局眠りについたのは3時をまわった頃であった。

「もう起きてるから。分かってるって!」

ウィーーーン……。

何の音だろうと思った矢先、体を強烈な違和感が襲う。起床装置が作動したのだ。

体が下から押し上げられる。この不快感は一度体験したらよく分かるだろう。しかも人を持ち上げるくらいに風船を膨らませるためには、物凄い勢いで空気を送り込まなくてはいけない。

掃除機をイメージしてもらえば分かりやすいだろう。スイッチを入れると物凄い音とともに勢いよく空気を吸い込む。それと同じようなことが布団の下で起こっているのだ。

動作音はなるべく小さく設定されているが、プレッシャーの中で寝ている駅員を起こすには十分な音量だ。

しかし、目覚めてもスイッチを止める前に体が押し上げられる。「もう起きてるから。分かってるって!」と機械にツッコミたくなる。1回で起床装置を極力使いたくない気持ちがよく分かった。これ以降、私も携帯のアラームで起きる派になった。

さて、こんな状況でもなぜ駅員の寝坊は発生するのだろうか。

最大の原因は二度寝である。

私も半年に1回ほど二度寝してしまい、起床装置のお世話になることがあった。やっぱり不快であるものの、寝坊を防ぐ最後の砦として活躍してくれて、大変感謝した。起床装置は寝た姿勢のままオフにできないようベッドから離れた所にスイッチが設置されている。

しかし、起床装置を早目にセットしたが裏目に出て、止めたもののあと5分……と二度寝し、寝坊となってしまうパターンが多い。駅員である限り、「短時間睡眠+寝坊したらアウト」という状況が出勤するたびにあると思うと、しんどいのは間違いないだろう。

あなたの身近な駅で働いている駅員も、毎日この戦いに打ち勝っているのだ。