日本の鉄道は時間に正確だと言われる。駅員が遅刻をしてしまったらどうなるのか。元JR職員の綿貫渉さんは「鉄道業界では、安全以上に時間管理が厳しく求められている。私は8分遅刻をした結果、ほぼ全員が合格する昇進試験に落ちてしまった」という――。

※本稿は、綿貫渉『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

ホームに停車する電車
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駅の仕事で一番大切なこと

駅に配属になった初日。助役からこんな質問をされた。

「駅の仕事で一番大切なことは何だと思う?」
「えっと、何よりも安全を大事にすることですか?」

鉄道の仕事は安全第一。研修中も口酸っぱく叩きこまれたので正解だろう。

「そうだな、それもそうだが、まず時間通りに朝9時に出勤すること。そして泊まり勤務の朝も時間通りに起きることだ。それ以外のミスは大抵何とかなる」

なんと、時間管理だった。

もちろん安全を軽視して良いということではない。駅員が乗客の安全に直接関わるのは駅のホームで作業をするときがメインである。ホーム上で何か異常を認め、列車の運行に少しでも支障があると判断したら列車を止める手配をする。

しかし、小規模な駅だとホーム上で列車の看視は行わないため、「安全を守る」という場面はどうしても少ない。そうなると、安全以外の項目で一番大切なことは時間管理なのだと教わった。

交代制の勤務なので、遅刻すると前任者が帰ることができない。それだけなら前任者が残業すれば良いが、泊まり勤務で初電担当の日に起きれないとどうなるか。

「駅員 寝坊」で検索してほしい。「駅員が寝坊して駅のシャッターが閉まりっぱなしに。乗客○○名が始発電車に乗れず」という記事が何件も出てくるだろう。

そう、寝坊しただけで報道されてしまい、その不名誉な記録はいつまでもネットの海に残るのである。

会社員の場合、故意に犯罪行為をするくらいのことをしないと報道されないだろう。ただ、寝坊に関しては故意ではなく過失である。