私は、もともと朝が強い方ではない。学生時代のアルバイトでは何度か寝坊して遅刻したことがある。幸い寛容な会社であったため、遅刻した時間分、退勤を後にずらすとか、遅刻した分の給料が差し引かれるとか、その程度で済んでいた。
しかし鉄道員になったからにはそんな甘い考えは許されない。
遅刻と寝坊には細心の注意を払って駅員生活を送ろうと心に強く決めた。
膨らむ布団「定刻起床装置」の威力
駅員にとって寝坊は厳禁だということはお分かりいただけたと思う。では、どのようにして寝坊を防ぐのか。友人からこう言われたことがある。
「駅員って時間になると膨らむ布団で寝てるんでしょ? あれなら絶対寝坊しないじゃん! テレビで見たことある!」
それはそうなのだが、それでも寝坊は発生している。
まず膨らむ布団であるが、「定刻起床装置(*)」(以下、起床装置)という名称で、ネット通販でも買うことができる。10万円ほどするので、気軽に手が出る価格ではないが……。
この起床装置、意外と仕組みは単純で、大きい風船のようなものと空気を送り込むポンプが一体になっており、敷布団の下にこの風船を挟んで寝る。
そして時間になると空気が送り込まれ、風船が膨らんでいく(頑丈なので割れることはない)。その結果、その上で寝ている人の体を押し上げて起きることができる、という仕組みだ。それなら確実に起きられそうだ。私もそう思っていた。
*筆者註:定刻起床装置……この起床装置を使っているのは一部の鉄道会社のみ。使っていない会社も多い。
駅に配属になり、初の泊まり勤務で無事に終電の対応を終え、就寝の時間になった。先輩に寝室の説明を受ける。
「これが起床装置。目覚まし時計みたいに時間をセットするとその時間に膨らむから。まあ俺はこれ苦手だから携帯のアラーム(*)で起きるけど」
*筆者註:携帯のアラーム……携帯のアラームで起きる場合、音を出すと周りの同僚を起こしてしまうため、音量は最少にしてバイブの振動音で起きるのが慣習。
え、そうなの⁉ 夢が壊れたような、現実の世界を知ってしまった感覚に陥った。そうか、確かにこれを使わなくても良いのか。新しい発見である。
寝ようと思っても全然寝れない…
とはいっても、起床装置は寝る前に必ずセットするルールになっている。
そのため、起床装置が苦手な人は携帯のアラームを5分ほど前にセットしておき、万が一起きれなかった場合には起床装置が動作してそちらで起きる、という流れだ。
私もそうすべきなのか迷っていると、「最初だから起床装置使って起きてみれば?」という先輩の助言もあり、初日は起床装置を活用してみることにした。タイマーをセットして眠りにつく。