自分を納得させるしかない

説明会では様々な意見が飛び交った。

住民たちの意見をもとに管理組合で再精査した結果、戸当たり50万円ほどの一時金を徴収するという大規模修繕工事の議題が通常総会に上程され、承認された。

購入時に、次の大規模修繕を検討しているとは聞いていたけれど、その時の話ではまさか一時金を払うことになるとは思わなかった……。順風満帆な買い替えだと思っていたのにと、夫婦揃ってため息が出る。

約4カ月後、マンションの外観は見違えるほど綺麗になった。一時金や工事期間中はわずらわしかったが、共用部分も専有部分も、新しく快適である。「やはり、良い買い物をしたんだ」と思い直し、自分を納得させる吉井夫婦だった。

突然の火災発生

それから数カ月後の深夜のことだった。

けたたましい非常ベルの音が鳴った。飛び起きると、「火災です! 避難してください。火災です! 避難してください」との機械音が連呼している。窓の外には煙も見える。着の身着のまま、2人で慌てて屋外へと避難した。

地上からマンションを見上げると、黒煙が建物を覆っている。煙の流れを見ると、どうも自分が住む真上の部屋が火元のようだ。

すぐに消防隊が駆け付け、懸命の消火活動が始まる。

住人が見守る中、火は1時間ほどで消し止められた。煙を吸うなどして病院に搬送される住人がいたものの、幸いにしていずれも症状は軽いという。

火元は真上の部屋

火元はやはり真上の部屋であった。その部屋は全焼したものの、ほかの部屋に燃え移るなどの被害はなかったという話だ。

ホッとして自宅の部屋に戻ろうとしたところ、「火元の下階など近隣の部屋の方は、消火活動による影響で部屋の中が水浸しになっている可能性があります。また明日、実況見分があると思いますので、本日はホテルなどでの宿泊をお願いします」との案内があった。

仕方なく吉井夫婦も、その日は近くのホテルに泊まることにした。

翌朝自宅を覗くと、部屋の中の家具や床材などが濡れており、壁紙にはシミのような跡がある。それに、天井とクロスの間には水が溜まっているようにも見える。洋服や新聞、雑誌に至ってはまったく悲惨な状態だ。家電や設備は、動くのかどうか心配である。

共用廊下には同様の被害に遭った隣人が呆然と立っていた。声をかけると、昨夜は近所の知人宅に泊まった、室内は水浸しで、窓を開けた状態で避難したため、ひどい状態だ……と問わず語りに言う。