56歳で早期退職を決断

その後は、規則正しい生活を心がけたことが功を奏したのか、幸運にも後遺症が悪化することもなく、新しい部署で仕事に励む和夫さん。

そうこうしているうちに、新聞の購読部数が大きく減少する世の中の流れもあってか、勤めていた新聞社でも早期退職の募集がされるようになった。体のこともあるし、慣れた現在の職場で、できる範囲で頑張っていこうと和夫さんとしては考えた。

それからさらに数年が経ち、和夫さんは56歳になっていた。職場でふたたび早期退職の募集があった。60歳が見えてきたこともあってか、以前とは違い、「いつまで働き続けられるかわからない」という心境になっていた。

そこで、和夫さんは妻の真由美さんと話し合うことにした。

住宅ローンはすでに完済の目処が立っていて、息子も独立した。また、退職金の割増金などの条件も悪くない。夫婦のこれからの生活を見据え、和夫さんは早期退職することを決断した。

夫婦水入らずの毎日

決めてからは、仕事の引き継ぎなどで慌ただしく時間が過ぎていった。

そうして訪れた退職日の朝、妻からは手紙を渡された。

「今までお勤めご苦労さまでした。大病したにもかかわらず、長い間家族のため懸命に働いてくれてありがとうございました。これからは健康第一で、一緒にゆっくり旅行に行ったり、お買い物したり、2人の時間を楽しみましょう。これからも二人三脚でよろしくお願いします。真由美」

自宅を出て、通い慣れた駅までの道のりを歩きながら、胸にこみ上げてくるものを抑えきれず、和夫さんは涙が止まらなくなった。

退職後しばらくは、体調を整えるべく、通院しつつ規則正しい生活を送った。体調も良いことから、趣味の旅行に出かけたりと、吉井夫婦はしばらくのんびり過ごした。

「老後の住まい」をどうしよう……

退職して時間の余裕ができたからか、どちらからともなく「老後の住まい」について話が出るようになった。

吉井夫婦が28歳のときに新築で買ったマンションは、3LDK、78m2のファミリータイプで、駅からは徒歩12分と少し遠い立地にある。

夫婦の共通認識としては、「2人で住むには広すぎる」「駅まで少し遠い」「このまま住み続けるなら大がかりなリフォームが必要」というものだった。幾度か話し合った結果、「いい物件があったら、もう少し狭くていいから、駅に近いマンションに買い替えよう」ということになった。

この時点で、すでに住宅ローンを完済していたことも夫婦の背中を押した。両家からの支援で頭金を多くし、早めに完済することができたのだ。あらためて両親に感謝の思いが募る。

「早期退職時も思ったのですが、毎月のローン返済がないというのは、人生の負担も少なくなり、結果的に選択肢を狭めないなと感じますね」と和夫さんは言う。