老後に自宅の買い替えをするときは何に気をつけたらいいのか。近著『60歳からのマンション学』が話題のマンショントレンド評論家・日下部理絵さんは「子どもの独立や退職を機に、自宅の買い替えを検討する退職世代が増えています。しかし現実には、思うようにいかないケースも多いのです。ある50代後半の夫婦の経験を紹介しましょう」という──。

家族3人の幸せな暮らしだった、あの頃は…

元新聞記者の吉井和夫さん(仮名、58歳)は、郊外のファミリータイプのマンションに、妻の真由美さん(58歳)と2人で暮らしていた。

2人は20代前半の頃、友だちの友だちの紹介で、食事会という名目のいわゆる「合コン」で知り合った。同い年ということもあり、話も弾み、付き合うことに。順調な交際を重ね、26歳で結婚した。

新婚時は賃貸マンションに住んでいたが、2年後の更新のタイミングで新築マンションを購入。幸運にも両家から援助を受けることができ、頭金を多めにすることができた。「若くて貯金もあまりありませんでしたから、とてもありがたかったのを覚えています」と当時を振り返る。

和夫さんは記者という仕事柄、忙しい毎日だったが、一人息子の直樹さんにも恵まれ、家族3人で幸せな生活を送っていた。

しわのある男性の手署名紙文書に焦点を当て締めくくります
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夫を突然襲った病魔

しかし、48歳のとき、そんな和夫さんに病魔が忍び寄る。職場でデスクワーク中に、突然座っていられないほどの激しい胸の痛みに襲われたのだ。

鈍器で殴られたかのような痛みがあり、息苦しさはどんどん強くなる。冷や汗や吐き気をこらえながら、なんとか同僚に助けを求め、救急車で近くの大学病院に運ばれた。

検査の結果は、急性心筋梗塞。幸い発症からすぐに処置できたこともあり、命に別状はないという。ただし、後遺症として軽度の不整脈が残った。薬の常用が必要となり、ほかにも運動、十分な睡眠、禁煙、禁酒など「生活習慣の見直しが重要だ」と医師からは告げられた。

しばらくして職場に復帰したものの、体調を考慮し、記者職から知的財産を管理する部署へ異動することになった。悔しさもあったが、「身体と大切な家族を守るためだ」と和夫さんは自分に言い聞かせた。