かつては戸建てが「住宅すごろく」のゴールとされていたが、いまや「終の棲家」として分譲マンションの購入・買い替えを選択する中高年が増えている。しかし、近著『60歳からのマンション学』が話題のマンショントレンド評論家・日下部理絵さんは「その一方で、60代以上で住宅ローン破綻になる人が増加しているのです」と指摘し、ある60代夫婦の実例を紹介する──。
「定年後の穏やかな時間」を願った老夫婦の悲劇
都内のマンションに住む荒木茂さん(66歳)は、妻の洋子さん(65歳)と、築42年の3LDKのマンションに住んでいる。
2人は学生時代の先輩後輩で、出会いからもう50年近くになる。洋子さんが社会人になったタイミングで入籍し、いま住んでいるマンションを新築で購入した。35年ローンだったが、現在は完済している。子どもたちも家庭を築き、かわいい孫もいる。
茂さんは65歳で退職し、年金暮らしだ。これから夫婦2人で穏やかな時間を過ごそうとしていた。その矢先、荒木夫婦は、生活を脅かすような悲劇に襲われたのだ──。
退職金を頭金に「買い替え」
茂さんが勤めていた会社は60歳定年だったが、希望すれば65歳まで定年前と同一の労働条件で勤務延長ができた。茂さんは延長を希望することにした。
一方、勤務延長期間については、退職金計算の対象外とされ、60歳までの退職金は65歳の退職時に支給される。年金についても、勤務延長により毎月47万円を超える収入があるため、退職日の翌月からの支給となる。
※編集部註:初出時、年金の繰り下げ受給について誤解を招く表現があったため、当該箇所を修正しました。(5月30日11時49分)
洋子さんとは、定年を迎える数年前から「自宅マンションも築40年を超えて古くなってきたから、退職金が出たら買い替えしたいわね」などと話していた。
茂さんは65歳になり、退職2カ月後には念願の退職金が振り込まれた。その退職金を頭金に、いよいよ買い替えるマンション探しをすることになった。