黒田のバナナジュース店の原点

黒田がバナナジュースの魅力に気づいたのは、8年ほど前のことだった。毎日のようにおいしいものを探して都内を歩き回る生活で、偶然見つけたのが東銀座にある「銀座バナナジュース」だった。

バナナスタンドのバナナジュース(筆者撮影)
銀座バナナジュース。12時の開店から行列が絶えない。(筆者撮影)

驚いたのは、その販売スタイルだった。店内に座席はなく、客はジュースを受け取ると歩きながら飲みはじめる。スッキリとした甘さで、どんどん飲めてしまう。260円という安さも、毎日飲むにはちょうどいい価格だ。味から値段、販売スタイルまですべてが計算されていたのだろう。女性がほとんど一人で回していた。

「銀座バナナジュース」の女性店主、大和田理恵だ。大和田がはじめてバナナジュースを作ったのは2007年。牛乳が嫌いな人でも飲めるようにと、バナナの量を多くすることでできあがった味だ。それがある日メディアで取り上げられて、行列ができるようになる。吸い寄せられるように客が集まってくるのは、毎日飲むことが習慣になっているからだ。

銀座バナナジュースの店主、大和田理恵さん。
著者撮影
銀座バナナジュースの店主、大和田理恵さん。

大和田のバナナジュースへのこだわりは徹底している。バナナは地元の八百屋から仕入れているが、4種類のバナナを味と熟成度合いに応じて使っている。自分で食べて確認するので、熟していないと思えばジュースは作らない。臨時休業だ。毎日来る客には味の違いがわかってしまうからだ。

頼るのは自分の舌と、ミキサーをかき混ぜる棒の感覚だ。少しでも手応えが少なければ、途中でバナナを追加する。トッピングのゴマは自分でするし、最近オーダーの多いアーモンドミルクも作る。すべてのバナナジュースは自分で作ることにこだわっているので、開店中トイレに行くこともできない。

一人でバナナジュースを作っていては店舗を拡大していくのはむずかしいが、ビジネス化することはできないか――。安くておいしいバナナジュースを、多くの店舗で効率的に提供するという黒田の夢を実現したのが「バナナスタンド」だった。

新商品のクレープ。もちもちの生地にバターとシュガーだけを使う。
著者撮影
新商品のクレープ。もちもちの生地にバターとシュガーだけを使う。

飲食氷河期を生き残るために…

ウェブの連載記事が始まってから、よく電話がかかってきますよ」

2022年の正月、プレジデントオンラインに黒田を紹介する記事が出た頃のことだ。焼きそばはどこに行けば食べられるのかといった問い合わせが、黒田のスマホに相次いだという。黒田が経営していた焼きそば店「焼き麺スタンド」は、連絡先に黒田の携帯番号を載せていた。それを見た読者が連絡を入れているのだろう。