元大手証券マンの黒田康介さん(29)は、4年前に脱サラして焼きそば専門店を始めた。相次いでテレビに取り上げられるなど成功したように思われたが、現在は全店を閉めて、バナナジュース店に業態転換している。なぜそうなったのか。黒田さんの元同僚で、兼業作家の町田哲也さんがリポートする――。(最終回)
年商1億円を稼ぐバナナジュース専門店の秘策
黒田が経営するジュース専門店「バナナスタンド」の快進撃が続いていた。
2020年8月にオープンした仙川駅内の1号店を皮切りに、21年は池上店(3月)、八王子店(4月)、府中店(5月)、桜上水(6月)の5店舗に増やした。7月と8月の売り上げ(5店舗の合計)は、それぞれ1000万円を超えた。
9月は10%程度の減少、10月以降もその傾向は続いたが、4カ月連続出店と試行錯誤を続けたフードメニューの効果が大きかった。黒田の「バナナスタンド」の年間売上高は1億円に達した。
この短期間で、どうやって「年商1億円」をたたき出すことができたのか。駅近という立地の利点と、バナナジュースを習慣化させることの利益貢献は大きい。
どの店も客の半分以上はリピーターで、ポイントカードを携帯している。大事なのは待たせずに提供することで、安定した販売体制が不可欠だった。
難点は天候の影響だ。雨が降ると売り上げは下がるし、寒くなるとジュースは見向きもされなくなる。実際に22年1月から2月がボトムで、バナナジュースの売り上げは夏の半分程度まで落ち込んだ。
ただし各店舗をワンオペで回すことができれば、人件費は店舗当たり一日1万円程度に抑えることができる。原材料と家賃がそれぞれ売り上げの25%、15%なので、一日の売り上げが2万円まで落ち込んでも赤字になることはなかった。
大事なのは、落ち込んだ売り上げをどう補うかだった。
黒田は前年の冬まで「焼き麺スタンド」(東京・神保町)で焼きそばを販売していたが、21年6月以降は休業状態だ。バナナジュース一本でも経営が傾くことはないが、各店舗のスタッフを効率的に使うためにも、販売商品を多様化する必要があった。