眠っているときのほうが分解速度は遅くなる

アルコールの分解の速さに個人差があるのはよく知られている。樋口さんによると、「アルコールが体から消えるまでの速度を調べると、最も速い人と最も遅い人では4~5倍程度の差があります」とのことだ。

なぜこのような差が生まれるのかというと、最も大きな要因は、肝臓の大きさや筋肉量と考えられている。

このほか、起きているときより眠っているときのほうがアルコールが消失する速度が遅くなるという。酒を飲んだ後、「仮眠すれば大丈夫」と思っている人は少なくないのではないだろうか。残念ながら、睡眠によってアルコールの分解は加速するのではなく、遅れてしまうのだ。久里浜医療センターは札幌医科大学との共同研究で、飲酒後に睡眠をとると、アルコールの分解が遅れることを確認している。

「仮眠をとったから大丈夫」は危険

20代の男女計24人を対象に、体重1kg当たり0.75gのアルコール(体重60kgの人でアルコール45g=ビール約1Lに相当)を摂取し、4時間眠ったグループと4時間眠らずにいたグループの呼気中のアルコール濃度を調べたところ、眠ったグループの呼気中のアルコール濃度は眠らずにいたグループの約2倍となった。

葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)
葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)

こうした結果になった理由として、睡眠時にはアルコールを吸収する腸の働き、そしてアルコールを分解する肝臓の働きが弱まることが影響していると考えられるのだそうだ。

「飲酒後に『仮眠を取ったから大丈夫』と考えるのは危険です。飲酒後、十分な時間を取れないなら運転してはいけません」(樋口さん)

どうやら「寝たらアルコールが抜ける」と感じるのは、単に仮眠したことでスッキリしただけのようだ。

前日の酒量が多いほど、また飲み終わった時間が遅いほど、翌日の運転は危険をはらむ確率が高くなる。運転するなら、時間をしっかり確保した上で臨もう。

*1 “The relationship between blood alcohol concentration (BAC), age, and crash risk” R C Peck, M A Gebers, R B Voas, E Romano. J Safety Res. 2008;39:311-319.

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