児童相談所の限界

虐待事件が起きて悲惨な結末が報じられると「児童相談所は何をしていたんだ」と糾弾する傾向が見られるが、あれは全く核心を突けていない。

2019年、全国の児童相談所に寄せられた相談件数は54万件超、児童虐待相談の対応件数は19万件超と、どちらも過去最高を記録している(※3)。1990年の対応件数は1101件だったので、約30年間で176倍になっているのだ(※4)

この件数を全国225の児童相談所、約1万5000人の職員(そのうち児童福祉司4500人強、児童心理司1800人強)の体制で受け止めているのである(※5)。担当する案件が被らないという前提に立って単純計算すると、1相談所あたりの相談対応が年間2400件以上、児童福祉司一人あたりの対応だけで年間120件、児童虐待事案が年間40件以上となる(※6)

児童相談所は、警察や社会福祉法人、学校や民間団体と連携して業務を行っているのが現状だが、それでも業務量は多い。1回の電話や訪問でも膨大な時間がかかることは容易に想像できるし、一つの案件を早々に解決できないことも自明である。また、虐待の事案や通報が深夜・早朝に成されることも少なくない。対応が手薄にならざるを得ない状況なのである。

訪問しただけでぶち切れられる

さらには、その案件内容が現場の職員を苦しめる。正直、怒りと同情と切なさと、そして無力感にさいなまれる日々ではなかろうか。

「訪問するとさ、ジソウ(児童相談所)から来たって言っただけで、ぶち切れられることは多いよね。胸倉を掴まれたこともあるし、子供が悲しい顔して親の味方しちゃうことも多いし。何もできずに不幸なことになっちゃうと、正直シンドイなあって思う」

知り合いの福祉司は疲れた表情でそう語ってくれた。

子供の心や成長の助けにならない一時保護や誤認保護という問題も散見されるが、基本的には、その設立主旨に基づいた運営が成されていると言ってよい。