予測を大幅に誤り、大量在庫を抱えることに…

千野さんはそうした現場を経て、2013年には商品部へ。それはうれしい異動だったのではと聞くと、本人の返事は意外なものだった。

「実は希望ではなくて、むしろ避けていたというか。商品部というのはモノが好きでクリエイティブな才能のある人が行くと思っていたので、あまりセンスもない自分には向いていないなと。私はモノより人と向き合う仕事の方が好きなので、全然興味がなかったんですね」と苦笑する千野さん。

商品部ではアシスタントバイヤーを務め、食器の担当に。ニトリでは自社のバイヤーが海外の展示会で新製品や素材のチェックをするが、大きなミスをしてしまったと明かす。

「夏用にタイのガラスを仕入れたんですね。かわいいなという気持ちだけでちょっと薄いピンクの食器のシリーズを選んだのですが、まずこれが売れなくて……」

夏用の食器売場には透明なガラス製や涼し気なブルーの食器が並び、ピンクの食器はやはり違和感があった。季節商品は半年で売り切らなければいけないが、販売数量の予測も大幅に誤り、数年分の大量在庫を抱えてしまった。いつまでも売れ残っている商品を見る度、胸が痛んだという。

「マネジャーに言われたのは、バイヤーとしてのこだわりもあると思うけれど、ニトリに来るお客さまにとって必要な商品とは何かをちゃんと考えなければいけないと。独りよがりな商品選定をしてしまったことをとても反省しました」

ニトリでは売り場の拡大に応じ、新商品の選定に追われていた時期でもあった。その渦中で千野さんは身体に異変を感じた。丈夫さが取り柄と思っていたのに、生まれて初めて蕁麻疹を発症。病院へ行っても、「原因はわかりません。何かストレスがありますか?」などと聞かれ、ひどくショックを受けた。

「私のモットーは、どこの部署へ行っても仕事は楽しんでやろうという気持ち。けれどあの頃はどうしても楽しく思えなくて、とにかく売り場を埋めなければと焦りがありました。自分がやっていることに意義を見出せないでいたこともつらかったのでしょう」

もう仕事を続けることは難しいかもしれない。思い詰めた千野さんは上司に相談し、異動が決まる。次の配属先は人材教育に携わる部署で、もともと入社した頃から希望していた仕事だった。

苦労や失敗も若手の育成に活きた

千野さんは教育研修を担当し、アメリカセミナーの運営と講師も務めることになった。ニトリグループの代表的な研修制度であるアメリカセミナーは、入社2年目で参加する「入門コース」から選抜式の「上級コース」まで様々なコースが存在し、カリフォルニアの流通業を視察へ行く。ニトリのビジネスモデルはアメリカのチェーンストアにあり、千野さんも新人時代に現地を視察。買い物の楽しさを体感したことが大きな学びとなっていた。

「セミナーの講師は、店舗の運営面のオペレーションだけでなく、どうしてアメリカの流通業はこんなに安くコーディネートできる商品を販売しているのかという仕組みも説明しなければいけません。そのときに商品部で経験してきたことも活かされました。どんな苦労や失敗をしたか、話せることがたくさんあります。過去の経験が全部つながって、ようやくアウトプットできたんですね」