「わき道を歩いた」人のほうが強い理由

大久保幸夫●リクルート ワークス研究所所長。1961年生まれ。一橋大学卒業後、リクルート入社。人材総合サービス事業部門などを経て、99年、人と組織の研究機関・リクルート ワークス研究所を立ち上げる。著書に『キャリアデザイン入門』I、IIなど。

35歳からのキャリアデザインの最重要課題は「山決め」である。これまで仮決めにすぎなかった目標を見直すとともに、それまでの経歴、能力を棚卸しして、登るべき自分の山を決定するのである。これと決めた山に無関係なものは捨てることになるので、「腹決め」と言い換えてもいい。見習を卒業し、自らの手法を開発・確立する段階だ。とはいえ、誰もが「経営者になる」といった大きな山を目指す必要はない。自分に合った目標を定め、着実に登っていけばよい。

特定の分野にフォーカスすることで、自分はどのようなプロになりたいか、どうやって能力を高めていくかなどをおのずと考え、積極的に行動するようになる。

そのための仕事のバックグラウンドは、「メーン」と「サブ」の2つを持つのが望ましい。メーンの仕事は、これなら誰にも負けないと自信を持てるもので、サブのほうはとりあえず理解している程度でよいだろう。メーンの道だけを極めてその道のスペシャリストになるという選択肢もあるが、一つの職能だけを手がかりに山を登ることができるのは才能に恵まれたごく一部の人だけである。

例えば営業をメーンに据えて働いてきた人でも、いざ新商品開発に参加するとなれば製造部門やマーケティング部門との協力は欠かせない。その場合は他部門への理解があればコミュニケーションがしやすく発想も広がって、結果的によい仕事ができるはずだ。

メーン以外に得意分野を持つことはその後のキャリアにおいて決定的な影響を与える。一つの職域しか理解しようとしない人は、往々にして視野が偏り、他分野の人と話し合うのが苦手である。しかしそれではリーダーになったとき合意形成ができず、ましてイノベーションを起こすことなど不可能だ。40代で革新的なリーダーになれるのは、多くがサブのバックグラウンドを豊かに築いてきた人である。

このような相乗効果を期待してローテーション式の人事異動を行う会社は多い。しかし本人が受動的なままメーンを決定せずにいると、サブが増えるばかりで、いつか漂流してしまうだろう。