桜井一紀コーチ・トゥエンティワン取締役社長。1958年生まれ。日本大学大学院修了後、公立中学教師を経て、コミュニケーションの講師を務める。97年コーチ・トゥエンティワン、2000年に日本コーチ協会の設立に参画。07年より現職。

40代後半以降は、マネジャーとして重要な役割を担う世代である。一昔前は「部長」や「店長」のような肩書があればリーダーは務まったが、今はそうもいかない。「俺についてこい!」と先頭を走る気概だけでは不足なのだ。終身雇用制が当たり前でなくなった今、若い部下が「本当についていって大丈夫か」と立ち止まるのは当然のなりゆきだろう。

そこで求められるのは、部下一人一人のパフォーマンスを引き出し、チーム全体で業績を上げるプロのマネジャーである。個人の価値観が多様化する中、部下の指導も一律に行うだけでは成果を生まないので、各自に合わせた双方向のコミュニケーションをとることが重要だ。そのためには相手にわかる話し方、相手が話そうとしていることを受け入れる「聞き方」で対話を行う必要がある。

「部下の話はいつも聞いてるよ」と主張する人でも、その実コミュニケーションがとれていないケースは多い。「腑に落ちる」話し方でなければ、部下はなかなか理解できないし、ついてもこないのだ。相手が本当に理解しているかどうかを意識的に振り返り、十分でないと気づいたら自分の話し方、聞き方を軌道修正すべきだ。360度からの評価に真摯に耳を傾けながら、自分らしいマネジメントスタイルを模索していくしかない。でないと気づかないうちに「裸の王様」になってしまう。

もはや、自分の専門分野を磨くだけでは不十分なのだ。たとえばITの世界を例にとると、技術的な部分だけであれば、インドや中国などの優秀な技術者に任せることもできるだろう。そんな中でも生き残れる人は「自分は職人だから人間関係はどうでもいい」という姿勢ではなく、周囲の人と関わりを築く能力を身につけた人である。

最近、大企業でもコーチングの資格を昇進の条件にしているところがある。もはや人を動かす力なしにはミドル以上のキャリアなき時代に突入しているといっていい。

組織の中核から外れ、もはや会社から期待されていないと感じる人もいるだろう。が、「世の中が安泰ならばこんなことにはならなかった」と被害者的に考えていては負のスパイラルに陥るだけだ。「この状況で何が最善策なのか」と解決策を見出そうとする気持ちが起死回生につながる。会社を辞めて家族と過ごすという選択が幸せにつながる人もいるだろう。世の中や他人に期待するより、まず自分が変わることだ。

(構成=石田純子 撮影=永井 浩)